恒心文庫:怪文書
本文
コロッケ弁当は見送った。まず味も食感もイマイチ口に合わなかったから、捨てるのは勿体無いので駅にいた物乞いにくれてやった
いま、これから、東京に向かうのだ 人生で一番楽しみにしている あれを見に行く
東京湾横断レース スタートは23:00分頃と聞き胸が高鳴る 勿論、ゴール地点は多摩川の河川敷だ
一足先に会場へ着いた私は すかさず夜の横浜を練り歩いた 風吹けば俗人 潮風で髪が痛む 子カラスを貰いに沿岸を進む
23万は用意した 安さを求め 高みは目指さない 最低限で困難を乗り越える 苦しいときが上り坂 そう呟いて階段を上る
ささやかな楽しみだったが…待ち人の臆病さが邪魔をした そこで、23歳の歳の差婚を画策しようということになった
待つのは時間だけ…メールが一件、白いインクで23文字 唐澤貴洋だった 彼は今日の22:45分に入店する 夜明け5:50分まで
指名だ 終演後 図々しくせがんで来た 健常は健常へ ああこの鳥頭野郎 白いフンを零しやがった どうしてこう、鳥類は皆垂れ流しなのだろうか?
酒を呑み終わり 余ったアイスボールを手の上で転がす 振り返ると すっとぼけた寝顔が視界に入った
逆さにして黒ひげ危機一髪をしてやる どうやら血がのぼるより先に日がのぼったらしい
ぴちゅん ぴちゅん
鳥が鳴いた 東京タワーを背に輝く朝日を見て日本神話とエジプト神話を思い出す
ついでにギリシャ神話を思い出し 自分はイカロスとは違うのだと いつもとは違う達成感を浴びる
ふと、背に伸びた影を恐ろしく感じた私はオルフェウスのように振りかえりなどせず一目散に部屋を出た
廊下に敷かれた鮮やかなカーペットを踏んで外へ出る
そうだな、今日の朝食は唐揚げ弁当にでもするか
唐揚げには高級ダチョウ肉をセレクト、金が背ひれ尾ひれをつけて飛んで行った
芳醇かつ濃厚な味に素晴らしい噛み応え、たまらない、身が震える。23万はこのために…
ゆっくり噛んでいた筈なのに 肉はもう消え去ってしまっていた。
食後、140円のコーヒーをすすりながらチョコパイを食べる
少し早い間食だが、まだ食べたりない
なんとなく新聞に目を通すとそこには可愛らしいアヒルの姿が
うまそう。