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恒心文庫:夏の風物詩

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

窓ガラスの表面を水滴が伝っていくのを見つめ、当職は頬杖をついていた。濡れそぼる木々の向こう、いつもならば級友達の駆けるグラウンドは黒々と雨に沈んでいる。まるで霧がかかったかの様な景色、その遥か彼方までトグロを巻く暗雲を当職は眺めていた。授業中だというのに、集中出来ずにいる。
何処か遠く、チョークの音が教室の沈黙を叩いている。重なりあう雨音が重苦しい静けさとなって教室を覆っていく。室内は張り詰めている。その全てが一体となった場に、唯一そぐわないものがあるとすれば。
それは、当職の前で内緒話をする二人のクラスメイトであった。
他愛もない、楽しそうに繰り返されるおしゃべり。声の大きさは抑えられてはいるものの周囲の席には十分届いており、しかし前の二人はそれを省みもせず続けている。
あるいは気づいていないのか、後ろの当職にはその内容は丸聞こえであった。
その内容はトコロテンなるものについてであった。曰く細長く透き通り、その内側に冷たさを含んでいる。そしてそれを口に含めばたちまち熱は散じ、通じ穏やかにして腸を整えるとか。何より安く手に入ると聞く。
当職はトコロテンなるものに興味を抱かずにはいられなかった。居ても立っても居られず、当職は叫び声をあげる。
「トコロテンってなんナリか!アイスみたいナリか!!!」
その声に教室がざわめき立ち、前の2人が顔を歪める。さっきとは打って変わって開きっぱなしだった口をつぐみ、頑なに当職と口を聞こうとしない。
そうだ。ふと、当職は思う。こいつらは、前に当職のカードトークについてこられなかった奴らじゃないか。だから当職にトコロテンについて教えようとしないのか。
当職はあまりの怒りに腕を机に叩きつけた。身が震える。この卑怯者め。貧乏人が。汚い心の持ち主め。ありとあらゆる罵倒が腹の中で混ざり膨れ上がり、勢いだけが喉元からほとばしる。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
当職は走らずにはいられず、教室から飛び出すとそのまま帰宅した。
帰宅した当職を待っていたのは、父洋であった。
父のふかふかな胸毛に顔をうずめ、当職はひとしきり泣いてスッキリした。父洋のふくよかな胸、その間から洋の顔面をふと見上げて、当職は問いかけた。
トコロテンって何ナリか。
当職の上目遣いを受けて、父洋が柔らかに微笑む。ピンク色の唇が、艶やかに弧を描く。父洋は言う。
曰く、トコロテンは半透明だという。そして安く、何より腸が気持ち良いらしい。
当職は父洋の胸に体を寄せてこぼす。お父さんは、何でも知ってるナリね。父洋は当職の耳裏から囁く。手取り足取り教えてやるモミよ。
薄暗い室内。締め切った部屋には湿気が立ちこもっている。曖昧な輪郭を頼りに、父洋が当職のズボンに手をかけた。
天然素材100パーセントのズボンは、例えパンツを履いていなくとも当職の尻を優しく包んでいた。シミ一つない尻が、薄暗闇に茫と浮かび上がる。まるで生まれたての子羊のように、切なげに震えている。
その両タブを父洋は慈しむ様にひとなですると其のまま左右に押し広げていく。途端露わになる菊門。ピンク色に薄く色づいたすぼまりが微かに広がると同時に、父洋の顔を濃密な湿気が襲う。
やはり梅雨という時期で、蒸れていたのだ。まるで蒸したての小龍包の様にポツリポツリと汗をかく尻の表面、その一つ一つを追い回す様に父洋は縦横無尽に駆け回る。時に叩く様に、時に慈しむ様に響くリップノイズは、まるで父そのものだった。父の音、父の匂い。当職は耐え切れず尻を突き上げる。急激に外気に晒された尻タブの谷間が一瞬肌寒く感じるが、次の瞬間には痛みとともに灼熱が身体を引き裂く。
父洋が腰を突き入れたのだ。当職は息も絶え絶えに布団に爪を立てるが、その猛烈な出し入れは空気と腸液だけでなく父子の意識すら掻き混ぜていく。音が、熱が、匂いが。光が、おおきくなっていく。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
弾ける視界の中、当職は暖かく、白濁したトコロテンを知った。そしてクラスメイトの二人、彼らが言っていた冷たいトコロテンは嘘だったと気づいたのだった。
次の日、教室で嘘つきどもに本当のトコロテンを見せてやろうとして脱糞してしまったのは言うまでも無い。

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