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恒心文庫:白髪鬼

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

洋が子供を授かったのは30を過ぎた頃のことであった。
中々妊娠に至らず焦燥していた時期が続いたため、その喜びようは相当なものであったという。
そうして生まれた一人息子は、貴洋と名付けられた。愛情をたっぷりと受けて育ち、多大な期待を背負いながら成長していった。
しかし洋は気づいていなかったのだ。貴洋が親からの過渡な期待というプレッシャーに押しつぶされそうになっていたことを。
その日は朝から強い雨が降っていた。川は水嵩が増し、家の近くの用水路も近づかないようにという指示が出ていた。
中学からの帰りが遅いことに不安を覚えた洋が、次に貴洋と対面したのは病院の霊安室であった。
今でもそれが事故なのか自殺なのか、真相はわからない。だが間違いないのは貴洋はもうこの世にはいないということだけ。
洋は悔いた。結果的に己が貴洋を殺したのだと、自分自身を責め続けた。かつて仏と呼ばれた男は、いつからか白髪鬼と呼ばれるようになる。
悲劇から10年以上が経った頃、最近様子がおかしいことに気付いた洋の妻はふと洋の部屋へ入り日記を見つけた。
「あれから10年以上が経つ。僕は弁護士になった。『弟』の無念を晴らすためだけに、臥薪嘗胆の日々を過ごしてきた。
法律はきっと裁いてくれる。そしてやっと『俺は』優しい世界に行けるんだ……」
数日後、用水路に浮かぶ洋が発見され、その側には懺悔の言葉が連ねられた遺書と段ボール製の弁護士バッヂが落ちていた……。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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