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恒心文庫:漠然とした焦り

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

「ほいっ」ズロォ
ゆっくりと引きずり出されるペニスが、跳ねるようにして尻の暗がりから引き抜かれた。ヌポォン。
部屋の明かりを消し、ただ月の光をたよりにする行為は、淡い濃淡によって浮かび上がる。
窓から差し込んだ月明かり。部屋に差し込んだ仄かな道標の上を、青ざめたペニスの輪郭は幾度も横切った。
夜の静けさの中、涼やかな雰囲気さえ立ち上るそれは、しかし、ひどく滾っていた。
いまだ硬さを残すそのペニスの上で、薄く血管の浮いた包皮が寄れては伸びて、粘質な音とともに液を散らしている。
節くれだった手が丹念にペニスをしごいている。
今の今まで肛門に突き立ち、腸液で薄く湿っているそれを見て、男はため息をついた。
ただの二回である。男はしごくのをやめた手のひら、その上で脈打ちながら徐々に縮んでいくペニスを見た。
男は唐澤洋であった。齢60を越え、緑寿を越え、コキも近い年頃である。
若い者を導き、二人の子供を産み、後は緩やかに老いていく、そんな年頃である。
ペニスも老いるのだ。洋は悲しげに目を伏せる。
そうして動きを止めた洋を訝しんでか、彼の前に突き出された尻が急かすように左右に振られ、震える。
息子の尻である。洋は再度ため息をつくと、意を決して肉のみちみちと詰まった目の前の尻たぶを手のひらで揉みこみながら広げた。
途端、酸い匂いが鼻を突いた。
行為によって流れた汗と、洗いにくい場所に溜まった垢が尻たぶの間で擦れ合って混ざり合っていたのだ。
微かに突き出た尾てい骨から、月明かりを秘めて汗が滑り落ちていく。
洋は目を細めた。広げられた尻の輪郭、その奥まった中心の茶色いすぼまりが、今しがた滑り落ちた汗でピチピチと音を立てながらヒクついている。
貴洋の肛門である。洋は枯れ枝のようにしなびた自身のそれを一瞥し、やがて尻の間へと顔を寄せた。
そして舌の腹を添わせると、そのままなぞり上げた。
汗も、垢も、時折漏れ出す腸液も、一筋一筋舌先で捉え、舌腹で舐めとる。さらに舌根で味わうように転がし、また舌先でなぞる。
幾度か繰り返していると、肛門は何かをこらえるようにその輪郭をほのかに膨張させ舌を押し上げてくるが、次いでそのシワを薄く引き延ばすように丹念に丹念に舌を添わせていると、段々風味というか旨味というか、人を病みつきにさせる何かが染み出してくるのを感じる。
ああ!ああ!遠いところで甲高く張り上げた息子の声が聞こえるが、なおも舌を動かす。舌先で肛門が盛り上がっては引っ込み、尻たぶがぶるぶると震えだす。
ああ、そろそろかな。そう思った瞬間、肛門が小刻みに痙攣し、爆発した。
月はどこまでも優しく、親子の交流をただ見つめていた。

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