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恒心文庫:永尊の理

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

「やまおか、ごはん」
主語と主語でのみ為されるこの文、一般人が聴けば「何言ってんだクソデブ、カップ麺でも食ってろ」等と怒鳴るであろう。
しかしたかひろ君係にそれは許されない。
「はい、わかりました。」
108円もしないような作り笑いを浮かべながら返事をする。

台所にはカーネーションとトリカブトの花が飾られていて、どちらも美しい。が、無能のためにこの美しさのある台所で料理をしなければならないと考えると怒りが沸いてきた。
が、いつも通り料理をつくる。


「おいしかったナリ」
無能は食べ終えてから30分後に帰宅した。

ーーーーー

どうして僕がこんなことを、たかひろ君係をしなければならないのか。
たしかに弁護士として特に何かを成した訳でもないし、観方によっては給料泥棒や無能にみえるかもしれない。だが、それでも司法試験に受かった上級国民であるはずのこの僕がなぜ、なぜ、・・・

「やまおか、ごはん」
「はい、わかりました。」

今まで言われるがまま料理を作ってきたがもう我慢の限界である。

僕は、山岡裕明は、大地だ。唐澤貴洋は、その大地が無ければ生きていくことはできない。にもかかわらずヒトは、唐澤貴洋は、台地を貶し、汚し、凌辱した。
大地は積りに積もった怒りをプレートに伝わらせ、ジュールに換える。その時地震が起き、大地は震え、火山は爆発する。
山岡は大地になったのだ。

カレー盛り付け用の大皿を取り出しズボンを脱ぐ。そして火山の噴火口からマグマを抉り出しその皿に盛りつける!山岡は勃起していた。


「できましたよ。」

それは、どこからどうみてもクソとコシヒカリだ。ちょうど皿の半分で分かれている様はモーゼの奇跡を連想させる。
だが、
「いただきます」
クソとコシヒカリをちょうどスプーンの上でも対照になるように掬い上げ、パクッと食べた。



「おいしかったナリ」
 
完食された。食中、無能はいつも通り無表情であった。完食後の感想もいつも通りである。

怒りの結晶をいともたやすく打ち破られ、僕は茫然とする他なかった。

なぜクソカレーであったにも関わらず唐澤貴洋は完食し、いつも通り「おいしかった」と言ったのか?
クソがおいしかったなどということは絶対にありえない。かといってコシヒカリもいつも通りだ。
ならなぜ?なぜ?なぜ・・・


いつも通り? そういえば僕が料理をする時の返事はいつも同じだが、それはまた唐澤貴洋も同じだ。全てがいつも通り。
料理が何であれすべてがいつも通りになる。僕の大地のような怒りはからさんという名の恒星の前ではとてもちっぽけなものだったのか。
そして『いつも通り』という重力のような抱擁で僕の怒りを受け止めてくれた。

からさんが『いつも通り』無能であるから僕は『いつも通り』たかひろ君係でいられる。
からさんがマイナスの価値をもっているから僕はプラスの価値を、評価を得られている。

本当はからさんこそが【やまおか君係】ではないか。

その寛大さに感極まり山岡の頬には涙が伝っていた。そして尊師の使い終えたスプーンをしゃぶりながら射精をしていた。


その日も唐澤貴洋は食べ終えてから30分後に帰宅した。

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