恒心文庫:敵わない

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本文

「山岡くん、カラムーチョ」
当職がソファに寝転がりながらそう言うと、山岡は一瞬の間を空けてから立ち上がった。
掛けてあったコートを羽織りながらオランジーナの有無について尋ねてきたが、口を開くのが面倒だったため無視した。
山岡ならこれで察してくれるだろう。無言で出て行く山岡を尻目に、昨日飲み残したオランジーナを一気に喉に流し込む。
やはりオランジーナはうまい。大体いつもゴミ箱のある位置に、空ペットボトルを投げたがどうやら外れたようだ。山岡が後で捨てるだろう。
山岡の帰りを待ちながらテレビを観る。今日のカラムーチョはスティックタイプだ。何故なら昨日チップスタイプのカラムーチョを食べたからだ。山岡なら察してくれていることだろう。
しかしなんだか、無性にだんだん、すっぱムーチョが食べたくなってきた。今日はすっぱムーチョの気分だったようだ。いつも買い出しをしている山岡でも、今日の当職の気持ちは読めるだろうか。
「ただいま戻りました。」山岡の声と扉の閉まる音が当職の鼓膜を揺らす。
「はい、からさん。頼まれたものです。」
コンビニのビニール袋の中にはオランジーナとカラムーチョスティックタイプとすっぱムーチョが入っていた。
「山岡くん、すっぱムーチョは頼んでいないと思うのだが」
山岡はニヤまりと可愛げのある笑みを浮かべながら「なんとなくです。」とだけ言うと、すぐに仕事に戻った。
普段の当職なら、なんとなくなど許すはずがない。そして山岡もそれを知らないはずがないのである。
すっぱムーチョの封を開けながら山岡の笑みを思い浮かべる。
ああ、山岡には敵わない。

挿絵

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