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恒心文庫:所長の喫緊の課題

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

事務所の机に向かい物思いに耽っていた時
不意に事務所の呼び鈴が鳴った。
一体誰だろうか、他の弁護士達はみんな出払っておりしばらく戻らない
山岡裕明が訝しみながらドアを開けると、そこには長野哲久が立っていた。
「君が八雲法律事務所代表の山岡裕明君か、突然の来訪で済まない。」
裕明は長野が発するそこはかとなく嫌な雰囲気を感じ取りつつ
思考を巡らせた。
静岡県の重鎮弁護士が一体自分に何の用なのかと。

コーヒーを用意し着席を促す。
世間話をしつつ自分が唐澤と組んだ事で殺害予告を受けた事
物凄い気味の悪い奴らに粘着されてる事などの話に移った。
ここまで有名なるとは悪名とは無名に勝るというのは事実なのだと
思いつつ本題を話すように切り出した。
「長野さん、くだらない話はそろそろやめにしませんか?
そろそろ本題に入りましょう、私よりも実績も地位もあるあなたが
なぜ態々私に会いに?」
「実は息子が、やらかしましてね。
うちの事務所に所属したまま懲戒処分を出されたらうちの看板に傷がつく」
この狸親父、自分の息子の尻拭いを俺にやらせる気か。
「長野さん、うちじゃなくSteadinessじゃダメなんですか?
あそこも脛に傷がついた弁護士がいますよ?それも私以上の」
「いくら不肖の息子といえどあそこに所属はさせたくない
君も当事者なのでわかるだろ?」
裕明は徐にカップのコーヒーを持ち上げ
緩くなったコーヒーを飲み干した。
「長野さん、それじゃあ誠意を見せてもらおうか」裕明の急な態度の豹変に少し驚いたものの
長野哲久は冷静だ、嫌な笑みを浮かべている。
「百万円用意したので、これでうちの息子を引き取ってもらえませんかね?」
「長野さん、桁が足りませんよ?あと、うちで預かりますが
給料はそちらで払うか長野さんが個人的にお支払いください」
「おいおい、せめて五百万が限界だ、それにそっちが所属するのに給料を払わないというのは
明確に法に反する、弁護士としての資質を問われますよ?
山岡裕明さん言っておきますが、私はそれなりの地位がある。
長いものには巻かれるのが賢明ですよ?」
裕明は動じない
「知ったことか、この条件は譲れない」
「山岡さん、貴方は賢明だと思って」
裕明が胸ポケットのペン型のレコーダーを指先で叩きながら会話を遮る
「俺が今の会話をそっくりそのままネットに流したらどうなると思う?
俺は既にタトゥーが刻まれた身、あんたも消えない火に焼かれ苛まれることになるぞ」
長野哲久の顔が怒りで真っ赤になる
「君、私を脅しているのかね?」
「いえ?交渉ですよ?」
不意に長野哲久がレコーダーを強引に奪い取り破壊した。
「これがなければ立証なぞできやしない!油断は禁物だ!」
裕明は平然としている
「お年を召されたのと怒りと焦りで正常な判断がつかないんですか?
レコーダーは一つじゃない、それに今のは立派な暴行および器物損壊です。
監視カメラも他のレコーダーもこの事務所のどこかにありますよ?
全部壊しますか?勿論その間に通報しますが」
長野は観念した。
「嫌な奴だ、わかった一千万払おう。給料も私が持つ。」
「いえ、さっき五百万は出せると言ってたのでそこから一桁増やして
五千万にしてください、暴行とレコーダー壊した慰謝料込みです」
「本当に嫌な奴だ足元を見過ぎだ、いつか後悔するぞ」
「お互い様でしょ?」
憮然ときた表情で長野は八雲法律事務所を後にした。
後日裕明の口座には五千万が振り込まれた。
「長野哲久め、なんて卑劣な奴、俺は一体どうすればいいんだ」
自分も長野哲久を脅したことを棚に上げつつ
相手を心のうちで非難した。
引き取った長野英樹はいびってストレス解消にでも使えばいいか
そう思いつつ裕明は事務所を後にした。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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