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恒心文庫:将来の夢

提供:唐澤貴洋Wiki
2021年12月3日 (金) 16:19時点における>チー二ョによる版 (ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> 僕が高校生だった頃の話だ。 その時の将来の夢は父親みたいな立派な大人になること。 僕の父親は僕や…」)
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本文

僕が高校生だった頃の話だ。
その時の将来の夢は父親みたいな立派な大人になること。
僕の父親は僕や弟の厚史の事をいつも面倒見てくれると同時に、仕事もこなせるような立派な大人だった。
実際、身近な存在ながらアインシュタインやエジソンよりも尊敬していたであろう。
僕は中学校にいた頃、よくいじめられていた。
「やーい!!うんこ漏らし!!」「臭ぇんだよ!!臭さが俺にまで移るぜ!!」
「うんこもーらし!うんこもーらし!うんこもーらし!」
日常茶飯事に、このような事が続いていた。
だが、いつもそばに居てくれる人が居た。
「いい加減にしろ!!」
それは聞き慣れた声だった。
「俺の兄さんになんてことしてやがる!!年上だろうが、そんな奴には容赦しない!!」
そう、厚史だった。
「うんこ漏らしの弟だぞ!!皆逃げろ――!!」
厚史はいつも僕を守ってくれていた。
そう、あの日にが来る前までは。
高校に入ってからもいじめられる事が多かった。
僕が教室に入ると、教室の中には僕の机だけ。
机上にはチープな言葉が羅列されていた。
もうだめだ、僕はここに居てはならない。
気が付くと、僕は一人川の遥か上に立っていた。
最後に心地よい風を感じようと手を横に広げる。そして、全身の力を抜いた。
その直後、何かが僕を包んだ。それと同時に叫び声が聞こえた。
目を開けると、そこには厚史がいた。
「兄さんの馬鹿!!」
温かい滴が伝ってポタリと地面へ落ちた。
「心配したんだよ!?何も言わずに家を出るから!!」
厚史はしゃくり上げながら言った。
「厚史、止めないでくれ。僕がここにいる理由はもう無い。気力も全て吹き飛んでしまったんだ。」
「何をしても無力感。自問自答しても答えは見つからないまま。もうこんなの嫌だ。」
僕は、本来頭で思っていなかったことを口に出した。
「だからって、身を投げることは無いだろ!!」
「厚史にはわかりゃしないんだ!!」
僕は手を突き放した。
フワリと宙に浮く。
時間が止まる。
目をかっと見開く。
僕を見る。
手を伸ばす。
手を伸ばす。
思いっきり叫ぶ。
届かない。
醜く蒼い空に、吸い込まれるように厚史は消えていった。
ドボン
その音が僕の頭を飽和するほどにまで溶け込んだ。

それから僕はよく夢を見た。厚史の夢だ。
その時、厚史はいつも笑っていた。無理に作った笑顔のようにも見えた。
しかし、厚史は明るい話をしてくれた。
そうか。僕の中に厚史は居るんだ。死んでなんか居ない。
そう思った。
「あっ、だ、だめ・・出りゅ!出りゅよ!」
父親も悟りを開いたようだった。
最初は茶色い発酵物をそこら中に撒き散らすため、正直汚いと思った。
しかし、その発酵物を観察する内にどんどん魅入られていくようになった。
今日はカーキ色。ニラの匂い。
昨日は黒色。糠味噌の匂い。
こんな具合で、僕の趣味は発酵物の観察になっていった。
いつの間にか、その趣味が高校に広まっていった。
「おい!!うんこマニア!!お前を見ると皆に菌が移るからやめろよ(笑)」
「嬉しい限りです。」
「…?」
「当職の当職における当職の趣味は発酵物の観察です。当職は当職の発酵物、或いは当職と関連性がある人物の発酵物を当職自身で観察する事が唯一の生き甲斐です。もし発酵物で困ることがあれば当職に連絡してください。当職はあなた達の発酵物も当職のこの目で見たいのです。」
そうだ、広めていけば良いのだ。
そうして、僕自身の理想郷を作っていこう。
そう、弁護士という信頼できる地位になって。
それが今の、将来の夢――。

「――はい。どちら様でしょうか?」
「唐澤貴洋先生から呼び出されました、山岡裕明という者です。」
「――山岡さんですか。唐澤先生からお伺いしております。どうぞお入りください。」
「やあ、わざわざ足を運んでくれたのは他でもない、君のおかげだ。」
「君を呼び出したのにはある理由がある。この事務所の方針を成功させる素質があるからだ。」
「…?この事務所の方針は何か?その答えは簡単だ。」
―――『優しい世界』を作る事―――

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