恒心文庫:刺青
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本文
強くなりたいいつもそう思っている少年だった彼は高二の時、彫師に無理を通し背面に立派な和彫りを入れた。
「仁義なき戦い」で観たそれへの憧憬もあったが、第一に彼はその頃年子の弟を失った。
弟を救えなかった自らへの改めとして生涯消えない十字架を背負ったのであった。
私の中にはいつも弟がいます。
その声は震え、話し終わるか終らないかの時、彼の円らなたれ目からはキラキラと涙の粒がこぼれ出したのだった。
過去の喪失の傷に負けんとせん彼が身体中いっぱい表現する強がりは私の胸に転移してとてもいじらしく・かわいい彼への想いは確信された。
するりと地に落ちたスーツと下着の内、彼の身体が公然となる。
首の直下から一縷の弛みさえなくピンと締められた褌の辺りまで、仏を中心に座した見事な和彫りの刺青が刻まれていた。
かくて仏を囲むように配置された梵字が意味するところは弟の冥福を祈る旨だという。
その美しさと驚嘆のため私は思わず声を失い、暫しの沈黙が二人の距離をさまよった後、彼は振り向いて、
当職は当職ナリよ
そう囁き私ににこりと微笑みかけた。
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