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恒心文庫:一般女性「出産は男の子が体験するとしんじゃうくらい痛いんだよ!」

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

嘘モミよ。
唐澤洋のそう言いたげな顔が、渋谷のスクランブル交差点、そこに滞って立ち往生する人々を見下ろす様にして大画面に映し出されている。
もちろんそれだけにはとどまらない。
球場のバックスクリーンだって、お茶の間に流れる国営テレビジョンだって、子供がもつ携帯ゲーム機さえも、今や唐澤洋の顔だけを映し出す機能のみを残し、それ以外の操作を一切受け付けないのだ。
「一体どうなってる!」
首相官邸に怒号が響く。備えつけの受話器をしばらく耳に寄せていた秘書官が、口早に答える。
「通信の類は全滅しています」
秘書官は焦ったように、しかしどこか諦めを含んだ声音で言う。耳から離した受話器からは、ヒッヒッフーと何者かの呼吸音が、絶えずリズムよく聞こえてくる。
無線も、プライベートの電話も、右翼の街宣車も、全てが不気味なまでにその呼吸音を揃えて響かせている。
電波塔がジャックされたのか、それとも衛生へのハッキングなのか。なにが起きているのかいまだに掴めず、ただ苛立ちのままに当たり散らそうとするが、そこは一国の首相である。
下手な姿を見せまいと一息ついて、ふと気づいた。
おそるおそる利き手を自分の喉にやる。見れば、秘書官も何かを確かめるようにしきりに自分の喉を揉んでいる。自身の指で締め付けられた喉笛が、か細い呼吸とともに歪められた音を奏でている。
ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。
いつの間にか、自分たちも同じ音を出しているらしい。視界の隅、備えつけの液晶に映し出された会計士の口元も同じタイミングで呼吸を繰り返している。
訳もわからずにぼんやりいると、ふと、会計士の口元から映像が動いた。会計士のアヒル口がまず画面外へと滑って見切れて、順に喉元、胸元、腹部が上へ上へと流れて消え、そのまま局部がハイビジョンでアップされた。
局部は露出していた。何も身につけていない肌寒さのためか、黒くすぼまった竿がはかなげにプルリプルリ震えている。毛は剃られてしまったのか、痛々しげな剃り跡がブツブツと鳥肌のようにちんこ周りで粟だっている。カメラはその赤みがかった一つ一つを慈しむように映し出しながら竿の裏側、青紫色に縮こまったキンタマを通り越し奥へ奥へゆっくりとアングルを変えていく。
次いで大画面に映されたのは、唐澤洋の肛門であった。暗褐色のすぼまりは何かをこらえるように、せり出しては内側へと引かれ、またせり出している。背景では変わらず呼吸音のリズムが刻まれており、まるでお互いにセッションしているかのような小気味良さを感じる。
「あっ」
不意に、それは飛び出していた。
つぶらな瞳、丸い鼻、そして薄く弧を描いた口元。スーツを身につけたそれが勢いよく飛び出した瞬間、画面はもう何も映してはいなかった。


誰もこのことは覚えていないだろう。
ただ、彼は確かに産まれたのだ。ぼくらの頭の中に産声を上げて。

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