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恒心文庫:コントラポジション

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本文

クルスーヴェ神に謁見できなかった者は多数いる。本稿で取り上げる彼は、邪な心に染まりきった悪人であり、また神の所以を知らなかった。この者は自らの匿すべきものを忌憚なく曝け出し、身の程を弁えない俗欲を暴発させ、嘲笑を買っていた愚者である。彼はある寒い日、居るはずのない女に呼び出されたと触れ回り、天使たちの集う場所に赴こうとしていた。架空存在のエバに唆されたのである。その際に偶然出くわした男に、彼は気さくに挨拶し、この男ーー神に仕える信徒の一人であったーーに自らの姿を撮られることをも厭わず、人為のエバを求め、聖地へと向かった。異教徒が見た聖地は、ただの路地裏オフィスであった。しかし彼は、エバが自らを待っていることを刹那も疑わず、律儀にインターホンを押した。その姿を捉えていた信徒は、機械越しに聞こえる鈴の音に恐れ慄き、その場を立ち去ってしまった。教団の史料によると、彼は司法の者によって巧みに追い返されたという。
このような出来事が、2016年1月に起こった。それ以降のこの異教徒に関する記録は曖昧である。相変わらず俗欲を持て余し、預言者の住まう地 、呪文として名高いツィバを訪れたとか、訪れていないとか。
その夏、彼はある書に、意味深長な言葉を綴り、行方を晦ました。しかし、彼の独特な発話や神話観に感化された信徒が増え、その存在は我々の内に生き続けている。

改訂版追記
2018年5月、この異教徒の魚と戯れる様が確認された。彼は確かに、我々の内にも外にも生き続けている。

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