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恒心文庫:やさしさ

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

粉飾決算の件で職を失った私は、息子とともに日本から逃げ出し、アラスカの極寒の地を彷徨っていた。

「お腹すいたナリ・・・」

「頑張れ。もうすぐで休憩だ。アザラシでも捕って食おうじゃないか。」

「アザラシなんて当職は食べたくないナリ!当職が求めるのは当職の階級に相応しい高級料理だけナリよ!」

「いい加減にしろ。現実と向き合わなければならん。河野おじいさんの言っていたことを忘れたのか。」

「嫌だ!嫌ナリよ~!」

バタバタと足を動かして喚き散らす。ダチョウの遺伝子の発現か。まったく、みっともない。

「そんだけ元気があるなら大丈夫だ。さあ着いたぞ。」

おかしい、アザラシどころか魚一匹見つからない。原住民に騙されたのだろうか。

「パパ~!お腹すいたナリよ~もう限界ナリ~」

また「幼児化」した。私が構ってやらないといつもこうなのだ。

「困ったね。まあとりあえず休憩しよう。」

小さな穴を見つけたので私たちはそこでしばらく休むことにした。

優~しい世界~の始まりナリ~さよ~ならさよな~ら♪

奥の方で何かやっているようだ。やれやれ。どれだけ手を焼かせたら気が済むのだろう。

「つくる!つくるナリよ!」

「何をつくるんだ。」

「カレーライス、パパ好きだったでしょ?」

ブチチチチブチチュチュチブチ・・・

「ライスはないから氷で我慢してね。見た目はカレー・・・カレーナリよ。」

なんだ。私の気づかないうちに、少しは大人になったじゃないか。

その精一杯の優しさに、私は目から涙が止まらなかった。

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