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恒心文庫:しいたけ

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本文

学生のころ、とにかくお金がなかった。勉強の合間を縫って働いたなけなしのバイト代は参考書やノートに消えていく。
カップラーメンはごちそうだった。空腹をごまかすため塩や砂糖を舐めていたときもある。電気を止められた月はできるだけ大学にいた。
夏の貧乏はまだましで、冬の貧乏は寒さで心がやられてしまう。もともと瘦せ型だった僕は、冬に入ってますます痩せた。

コンビニで10円の駄菓子を二つだけ買って帰ろうとした夜、同級生の山本くんにばったり会った。彼は、僕が最近ものすごく痩せたことについて心配しているようだ。
山本くんはおもむろにコンビニ袋を探り、ほかほかの肉まんを半分に割って、それを僕に「はいっ」と差し出した。
「やるよ」
「いいの?」
「うん」
僕は山本くんから肉まんを受け取り、一口食べた。
すると涙が溢れてきた。山本くんは僕の背中を叩いて笑う。
「なんだよ、そんなに腹減ってたのか?」
「ううん、違うよ」
鼻をすすり、もう一口食べた。
僕には分かる……匂いでもう分かる。野生の嗅覚。どんなに細かくしたって無駄だ。
この肉まんには、あの唾棄すべき菌類、僕の大嫌いな食用なめくじ……しいたけが入っているのだ!!

山本くんはにこにこしながら僕を見ていた。美味しい?美味しい?と目で聞いている。寒いのか鼻の頭が赤い。
「ありがとう、山本くん」
僕は、ほかほかの肉まんを全部食べた。涙が止まらなかった。なんの涙なのか、僕には分からない……。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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