「インフレーシヨンと物價對策」の版間の差分

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'''インフレーシヨンと物價對策'''(いんふれーしょんとぶっかたいさく)は、明治大学商科二年の[[河野喜代|柳下喜代]](尊師の母方祖母)が、『明治大学女子部創立十周年記念論文集 : 皇紀二千六百年』に寄稿した論文である。
'''インフレーシヨンと物價對策'''(いんふれーしょんとぶっかたいさく)は、明治大学専門部女子部商科二年の[[河野喜代|柳下喜代]](尊師の母方祖母)が、『明治大学女子部創立十周年記念論文集 : 皇紀二千六百年』に寄稿した論文である。


== 全文 ==
== 全文 ==
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==== 數量說による貨幣󠄁價値の決定 ====
==== 數量說による貨幣󠄁價値の決定 ====
 インフレーシヨンと云ふ言葉は、極めて一般的に使󠄁用されてゐるにも拘らず、其の內容の規定は極めて區々である。
 インフレーシヨンと云ふ言葉は、極めて一般的に使󠄁用されてゐるにも拘らず、其の內容の規定は極めて區々である。
例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg{{原文ママ|Aufblähung}} に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう{{原文ママ|あらう}}。…………」⑴ とせられ、
例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg{{原文ママ|Aufblähung}} に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう{{原文ママ|あらう}}。…………」⑴ とせられ、荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴{{原文ママ|騰󠄁貴}}を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。<br>
荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴{{原文ママ|騰󠄁貴}}を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、
又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。<br>
 斯くの如くインフレーシヨンの規定は區々であるが、其れが貨幣󠄁價値の下落に關する事であり、其の原因を貨幣󠄁數量の增加に求める傾向にあり、然も量と共に其の流通󠄁速󠄁度にも變化ある事及び結果的にも必ず物價騰󠄁貴ある事が一般に認󠄁識せられてゐる所󠄁である。
 斯くの如くインフレーシヨンの規定は區々であるが、其れが貨幣󠄁價値の下落に關する事であり、其の原因を貨幣󠄁數量の增加に求める傾向にあり、然も量と共に其の流通󠄁速󠄁度にも變化ある事及び結果的にも必ず物價騰󠄁貴ある事が一般に認󠄁識せられてゐる所󠄁である。
かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。<br>
かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。<br>
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==== 貨幣󠄁價値決定に對する諸󠄀學說(數量說反對說としての) ====
==== 貨幣󠄁價値決定に對する諸󠄀學說(數量說反對說としての) ====


 品 質 說
 然るに貨幣󠄁數量說に對しては種々なる反對說がある。今、其の二、三を次󠄁に擧げて見ると、<br>
この說によれば、貨幣の流通に對して抱く世人の信任の變化、換言すれば貨幣の品質に對する判斷が貨幣價値に極めて重大なる影響を及ぼす、と云ふのである。
品  質  說<br>
而して、貨幣の流通に對する信任の動揺は、貨幣の流通速度を增大させて商品の側に於ては賣り惜み、と云ふ現象が現はれ、この兩者が相俟つて貨幣の價値を異常に低下させるから、
{{原文ママ|字下げなし}}この說によれば、貨幣󠄁の流通󠄁に對して抱󠄁く世人の信任の變化、換言すれば貨幣󠄁の品質に對する判󠄁斷が貨幣󠄁價値に極めて重大なる影響󠄂を及ぼす、と云ふのである。
貨幣價値決定上、その數量のみでなく、信任の要素即ち(即:旧字体)品質も亦重要なる役割をなすと云ふのである。
而して、貨幣󠄁の流通󠄁に對する信任の動搖は、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度を增大させて商品の側に於ては賣り惜み、と云ふ現𧰼が現はれ、この兩者󠄁が相俟つて貨幣󠄁の價値を異常に低下させるから、貨幣󠄁價値決定上、その數量のみでなく、信任の要󠄁素卽ち品質も亦重要󠄁なる役割󠄀をなすと云ふのである。<br>
 乍然、この説(説:旧字体)に云ふ商品販賣者が賣惜むのは、將來貨幣が增發されて、流通貨幣量が增加し、その結果貨幣價値が低下するだらうと云ふ豫測だからであり、
 乍然、この說に云ふ商品販賣者󠄁が賣惜しむのは、將來貨幣󠄁が增發されて、流通󠄁貨幣󠄁量が增加し、その結果貨幣󠄁價値が低下するだらうと云ふ豫測だからであり、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度の增大が貨幣󠄁價値に影響󠄃するのは、それが流通󠄁貨幣󠄁積數を增加させるからであり、この說は結局數量說の否定ではなくして、數量說を前󠄁提として始めて說明󠄁可能なのである{{原文ママ|句点なし}}<br>
貨幣の流通速度の增大が貨幣價値に影響(響:旧字体)するのはそれが流通貨幣積數を增加させるからであり、この説(旧字体)は結局數量説(説:旧字体)の否定ではなくして、
商  品  說<br>
數量説(説:旧字体)を前提として始めて説明可能(説:旧字体)なのである
 この說によれば、貨幣󠄁の價値はそれを構󠄁成󠄁する材料の商品價値によつて決定されるとなすのである。<br>
 
乍然、貨幣󠄁は商品に非ずして其の價値は、素材の價値とは全󠄁く獨立なる經濟手段である。
 商 品 説(説:旧字体)
故に地金の價値と貨幣󠄁の價値との關係について商品說の唱へる所󠄁は正鵠を失するものである。
 この説(旧字体)によれば、貨幣の價値はそれを構成する材料の商品價値によつて決定されるとなすのである。
卽ち鑄貨等の如く商品に還󠄁元し得る貨幣󠄁については一應適󠄁用するものであるが、實際價値以上の大なる通󠄁用力を有󠄁する補助貨幣󠄁に於ては適󠄁合し難󠄀いものであり、更󠄁に不換紙幣󠄁の如く商品還󠄁元の無意味なる貨幣󠄁については全󠄁く適󠄁合し得ぬものである。<br>
乍然、貨幣は商品に非ずして其の價値とは全く獨立なる經濟手段である。故に地金の價値と貨幣の價値との關係について商品説(旧字体)の唱へる所は正鵠を失するものである。
主&ensp;觀&ensp;價&ensp;値&ensp;說<br>
即ち(旧字体)鑄貨等の如く商品に還元し得る貨幣については一應適用するものであるが、實際價値以上の大なる通用力を有する補助貨幣に於ては適合し難いものであり、更
 貨幣󠄁が使󠄁用價値を有󠄁せぬ點より貨幣󠄁價値を交󠄁換價値として說明󠄁するのであるが然し、一方に於て價格に對する貨幣󠄁價値の獨立性を認󠄁めて、貨幣󠄁の交󠄁換價値については第一次󠄁的交󠄁換價値と第二次󠄁的の交󠄁換價値とを認󠄁めるのである。
 
而して前󠄁者󠄁を內部交󠄁換價値とし、後者󠄁を外部交󠄁換價値として、この內部交󠄁換價値が價値の變動の原因をなす所󠄁の貨幣󠄁の價値であるとするのである。
一八三
卽ち貨幣󠄁の價値は、貨幣󠄁に對する主觀的評󠄁價を通󠄁じて決定されると見る所󠄁の學說である。<br>
一八四
 この說も結局貨幣󠄁品質說と同樣に數量說を基本としてのみ說明󠄁可能であり數量說に對立する學說ではない。<br>
 
職  分  說<br>
に不換紙幣の如く商品還元の無意味なる貨幣については全く適合し得ぬものである。
 職分說又󠄂は需給說は、貨幣󠄁に對する需用{{原文ママ|需要󠄁}}供給が貨幣󠄁價値を決定するとなし、而して貨幣󠄁に對する需要󠄁とは、商品勞務を提供して貨幣󠄁を得んとする慾求である。
 
供給とは、貨幣󠄁によつて商品、勞力を得んとする慾求である。
 主 觀 價 値 説(説:旧字体)
故に前󠄁の慾求が强ければ物價は低落し、後の慾求が强ければ物價は騰󠄁貴するとなすのである。<br>
 貨幣が使用價値の獨立性を認めて、貨幣の交換價値については第一次的交換價値と第二次的の交換價値とを認めるのである。而して前者を内部交換價値とし、
 固より貨幣󠄁の價値を現實に決定するものは需要󠄁、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣󠄁數量說に云ふ所󠄁の他の事情󠄁にして同一なれば供給數量によるとの說に外ならぬのである。<br>
後者を外部交換價値として、この内部交換價値の變動の原因をなす所の貨幣の價値であるとするのである。
 斯の如く、從來貨幣󠄁數量說に對しては幾󠄁多の論あるに不拘、數量說が依然として貨幣󠄁經濟社󠄁會に於ける貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁する最基本的な理論たる所󠄁以は、數量說を他にしては貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁することは不可能であり、又󠄂數量說に對立する所󠄁の第二の貨幣󠄁理論の無い爲である。
即ち(旧字体)貨幣の價値は、貨幣に對する主觀價値説(説:旧字体)を通じて決定されると見る所の學説(説:旧字体)である。
 この説(旧字体)も結局貨幣品質説(説:旧字体)と同様に數量説(説:旧字体)を基本としてのみ説明可能(説:旧字体)であり數量説(説:旧字体)に對立する學説(説:旧字体)ではない。
 
 職 分 説(説:旧字体)
 職分説(説:旧字体)は需給説(説:旧字体)は、貨幣に對する慾求である。供給とは、貨幣によつて商品、勞力を得んとする慾求である。
故に前の慾求が強ければ(旧字体)物價は低落し、後の慾求が強ければ(旧字体)物價は謄貴するとなすのである。
 固より貨幣の價値を現實に決定するものは需要、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣數量説(説:旧字体)に云ふ所の他の事情(情:月→円)にして同一なれば供給數量によるとの説(旧字体)に外ならぬのである。
其の如く、從來貨幣數量説(説:旧字体)に對しては幾多の論あるに不拘、數量説(説:旧字体)が依然として貨幣經濟社會(社:旧字体)に於ける貨幣現象を説明(説:旧字体)する最基本的な理論たる所以は、
數量説(説:旧字体)を他にしては貨幣現象を説明(説:旧字体)することは不可能であり、又數量説(説:旧字体)に對立する所の第二の貨幣理論の無い爲である。


==== 貨幣󠄁價値の表現 ====
==== 貨幣󠄁價値の表現 ====
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