恒心文庫:皮
本文
父はいつも全裸だった
雨の日も風の日も
夏の陽射しの下でも
服という概念など持っていないのだ
逮捕もされた
レイプもされた
けれども父は常に産まれたままの姿だ
そんな真夏のある日
父は焼けすぎて小麦色になっていた
当職は、私は父の黒い身体を眺めていると
自宅の前に車が止まる音がした
そして屈強な黒服の男達と共に1人のロマンスグレーが現れた
「とても、良い皮だ」
そう男が声を発すると共に黒服の男達が父の両脇をガシッと掴む
男はゆっくりと父に近づきその陰部に手を触れる
そして悪魔の顔になったかと思えば父の腹から胸にかけての皮膚を思い切り破ったではないか
泣き叫ぶ父 漏らす登場 驚きショック死する弟 靴を干す母
男は ほぅ… と満足そうに手にした皮を眺めると黒服の男にそれを渡す 黒服は皮をパタパタしながら丁寧に持ち帰った
母の無関心な態度を不審に思う者もいるかもしれない
実はこれは歴とした儀式なのだ
母が言うにはあのロマンスグレーの男は代々受け継がれる革細工連合の元締めであり
我が屋はそれに皮を提供する一族だったのだ
それは未来永劫続く
弟亡き現在我が一族最後の資源は当職だけだ
当職は高齢の父から質の良い皮が取れなくなった今全裸で過ごすことを余儀なくされていた
そして今あの時と同じ様に両脇を捕まれ
あの男の目の前に佇んでいる
どうやらこの地獄の行事からは逃れられないらしい
ささやかな抵抗として当職は一生童貞を貫くことを決意していたのであった
タイトルについて
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。
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- 初出 - デリュケースレinエビケー 皮(魚拓)
恒心文庫