恒心文庫:洋一「兄ちゃん、見て、」

本文

「兄ちゃん、見て、にわとり殺したよ」
重力にまかせだらりと垂れる亡骸、羽は無造作にちぎられよほど暴れたのか足の指が欠けていた。
「ほめてほめて!ぼくひとりでやったんだ!アハハ!」
はっきり言って弟の笑顔は異常だ。10を数えるほどの年になろうと言うのに弟は倫理、法律がまったく理解できていなかった。
脂汗が出る。でも、表情には出さない。出せない。弟を怒らせた時にはハサミやコンパスが宙を舞った。
「凄いナリ、兄ちゃん有能な弟をもって嬉しいナリ。一緒に血抜きをするナリよ」
父には自分がやったと嘘をついた。二件隣の長谷川さんの鶏だったが、
地元の名士が頭を下げるとそんなそんなどうぞどうぞと、寧ろコネを得て喜んだようだった。
(マズイナリ…この弟だけは自分がなんとかしないとナリ…)
いずれ、弟は、近い将来人を殺す。弟の偏愛は母に傾いていたが母の心は自分に向いていた。
しかし、まだ弟は気づいて居ないようだった。
そしてその問題解決のチャンスはある嵐の空けた朝、カラリと晴れ上がった夏の日に訪れた。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

リンク

初出は別にある可能性が高いが未発見。