恒心文庫:恐怖

本文

 かなり昔の事になるが、貴洋は小学生の頃におおよそ週一回のペースで糞を漏らしていた。
それを理由に周囲から「うんこたれたかひろ」「どばどばうんちまん」「雲黒宰貴洋」などの素晴らしい称号をいただいていたわけだが、流石に食糞を行ってはいなかった。
先生は生徒達にきつく注意していたが、同級生のみならず下級生も貴洋を苛めていた。
何十回も教室で糞を漏らしていたと言う実績の前に先生の説教は大して有効ではなかったのだ。
 苛められていた貴洋を心配した父洋は中学への進学を機に引っ越しを決意し、ニュー貴洋の日々を始めさせようとしたのだが、貴洋は入学式の日に下痢便を垂れ流してしまった。
 それだけでもなかなかの事件だが、見知らぬ同級生たちから蔑視を受けるストレスから貴洋は週二回にまで教室脱糞のペースを引き上げてしまい、
ついには異臭立ちこめる中行われたクラス会議で「貴洋をひまわり学級に押し込めてしまえ」という意見がぶち上げられ、全会一致の賛成を得るまでに至ってしまった。
貴洋の成長を望む父洋の「差別は忌むべきだ」という思いと8桁の心付けが先生達の心と懐を温めたためにその議案は棄却されたが、
結果として生徒達はあらゆる垣根を越え、一致団結して貴洋への苛めを行うこととなった。
 同学年の9割が参加し、確固たる意思と目的をもって行われる苛めは止まることはなかった。
 消毒消臭と称して大量の消毒用アルコールとオキシドールを浴びせかけるなど序の口で、糞まみれになった机や椅子、鞄などを焼却炉に投げ込む、エイナスストッパー10を尻穴に捩じ込み蓋をする、トイレにいって糞をするまで貴洋を教室から閉め出すなどどんどんエスカレート。
 極限までエスカレートした苛めは、遂に危険な領域、即ち貴洋初めての食糞へと至るのである。


「いい加減にしやがれこのアホ!ボケ!」
ある日、再三トイレに行けと言われたと言うのに拒否した貴洋は午前中だけで3回も粗相をしてしまい、昼休みに屋上に引きずり出されていた。
「なんで僕をいじめるナリ!僕はなにもしてないナリ!(ブリブリブリュリュ!!!ブリブリュリュ!!!!!!)」
逆ギレ脱糞をかます貴洋。ここまでは何時もの事であり、いつもならばこの後はバケツに入ったハッカ油入り消毒用アルコールを浴びせられるのだが、今日用意されていたのは糞入りのバケツである。
「なんでうんちを持ってるナリ?」
同級生たちはその質問に答えることなく貴洋の口に漏斗を捩じ込み、困惑する貴洋に対し容赦なく6リットルもの貴洋のぷるぷるうんちを注ぎこんだ。
 貴洋は恐怖した。
四肢を下級国民どもに押さえつけられる無力感、貴洋のぷるぷるうんちに喉を遮られる屈辱感、周囲の人間全てから蔑みの視線を向けられる孤独感。
それらに与えられた恐怖は貴洋をすっかり支配してしまった。
それ以来貴洋は教室脱糞をしなくなったのだ。
代わりに親の権威を盾に横柄な態度をとるようになり(無論反撃を受けて涙目敗走していたが)、更には彼の書く文章に「恐怖」が頻出するようになった。
恐怖でもって支配された彼は、誰かを恐怖でもって支配したいという欲望にとりつかれたのである。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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