恒心文庫:尊師の足のうら

本文

ぺとぺと

白い部屋
染み一つない布団から
顔だけ出す尊師

半開きにされた口
とめどなく垂れるよだれ
ひくつく鼻
つぶらな目はまばたきすらせず染み一つない天井を映す

終わることのない中傷
絶え間無く注がれる視線
だれも尊師をみない
だれも尊師をみとめない

だから尊師はこうなった
だからぼくはここにいる
ぼくは枕元の吸いのみを手にとると尊師の口元に差し込んだ

力無さげに口がすぼむ
喉が動いて胸が動く
ただそれだけ
尊師は自分で動かない
動けない

しばらくして吸いのみを引き抜く
粘質な音をたてて糸がのびる
だけどそれだけ

数えきれないほどご飯をつくって
数えきれないほど水を飲ませて
数えきれないほどおしめを変えて
だけど何も変わらない
なにもいわない尊師

どうすればいいのかな
どうしたらいいのかな
幾度となく繰り返された行動は
感情と生活をバラバラにしてしまった
無機質にすぎる時間
自分は何をしているんだろうか
自分は何かをしているんだろうか
こうやって尊師も悩んでいたのかな

だから今日はとっておきのプレゼントだよ
子犬を一匹つれてきたんだ
つぶらなおめめのラブラドール
真っ黒な毛並みの小さな子犬
僕だけじゃだめだからアニマルセラピー
これならきっと大丈夫

でもだめだった
カーテンを閉めきった部屋の真ん中ベッドの上で
真っ黒な毛並みに重なる真っ黒な陰毛

重なっては離れ
離れては重なって
曖昧な境界を行き交う尊師とラブラドル
粘質な音だけを残して遊んでる

ぼくはなぜだかシラけてしまった
あそこにいるのはぼくのはずなのに
太陽の下元気になった尊師と手をつなぎ
買い物したかっただけなのに外食したかっただけなのに
またあの頃に戻りたかっただけ
それなのに

あなたの笑顔を見たかった
だけど太陽から隠れるあなた
揺れるお尻
まるで光から逃げる月のよう
カーテンを閉めきった部屋で肉欲に沈む尊師
困った様にこちらを見るラブラドル

ぼくはなぜだか腹がたってしまった
自分で勝手に期待して
勝手に期待が外れてて
腹が立って下腹部も立って
荒れ狂う感情の荒波にぼくは大事な何かを見失う
何かがぼくのズボンを脱ぎ捨てさせる

熱に浮かされまるで自分の体じゃないみたい
ぼくは肉欲に醜く膨らむ風船
おいてけぼりにした心は冷え切ったまま股間の渦巻くエネルギー
やがてたどり着く
夢中で腰をふる尊師のうち震えるお尻

ぼくは尊師を見ているけれど
尊師はぼくを見ないんだね
ぼくはなぜだか悲しくなって
尊師に腰を突き入れた
僕たちはどこにいくのだろう

僕たちはどこにいくのだろう
連結して軋みをあげる僕ら
視界の端では星屑が散る
まるで銀河鉄道999
ならば宇宙の果てへ

なんて
そんな高尚なものじゃない
目的地なんてない
ただ堕ちていくだけ
僕たちは囚人のように数珠つなぎ
思い思いに腰を振り欲望に振り回されながら
ここは獣達の楽園
肉欲という牢獄

この作品について

恒心文庫:尊師のおなかと同じく文章に歌を付けた曲がOrpheusで作られ、こちらは現存している。詳細はパカソン一覧#尊師の足のうらを参照。
また同一人物が同日になんJに尊師のこゆび(魚拓)というスレを立てているが、こちらはすぐスレ落ちしている。

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