恒心文庫:女の子の日

本文

強姦被害者の心情を職業柄よく考えていたせいだろうか。
Tの思考は女性化し、やがて肉体も女性化してしまった。

Tの乳房は男性のそれとは思えないくらい丸みを帯び、乳首はぷっくらとしている。ブラジャーのサイズだとBカップくらいだろうか。
Tは掌で柔和な肉を掴み、熱を伝えるようにそれを揉みしだく。

Tは自分が女性化したことに気づいたのは、汗も蒸発するような真夏の朝のことだった。
彼は事務所のトイレに籠り、ヒマラヤのような大便を便器にぶちまけていた。
大量に排泄された便の山は便座に迫るほどで、「これが百名山ナリか」と感心してしまうほどだ。
鼻をつまみながらうっとりと自らの大便を眺めていたTは、山の八合目に咲く真っ赤な花を目にした。
この日が齢37にして迎えた、初めての「女の子の日」だった。

柔らかな乳房の感触を確かめながら、Tは考える。
自分が女であると考えると、胸が大きいことももちろんだし、Yが毎日頼んでもないのに自分に弁当を作ってくることも合点がいった。
TはYに女として見られている。きっと、そうに違いない。だから彼は自分の関心を引くべく弁当を毎朝作ってくるのだ、と。
だけれども、次にYに作ってもらうのは弁当ではなく赤飯だ。

いくら自分の胸を揉んでも性的に興奮しなかったTだったが、Yのことを考えると彼の陰核、かつてペニスであったところが疼くようになっていた。
女としてYを受け入れることしかもう考えられなかった。事務所に嬌声がこだまする。

しかしながら、男が女になるなんて馬鹿げた話があるだろうか。あるわけがない。
Tの胸が大きいのは誰がどうみても肥満に伴うものだったし、Tの大便に血が混じっていたのは初潮を迎えたからではないのは明白だった。
彼の大便に咲いた赤い花は、破滅へ向かって軋みだした彼の肉体が発したシグナルだった。
愚かなTはそのことにまるで気づいていない。

彼は何も知らないまま「赤飯を作って欲しいナリ」とYにせがむ
しかしもう、赤飯なんて作る必要ない。わざわざ赤飯なんて炊かなくたって、いずれ赤く染まるのだから。

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