恒心文庫:大人の瞳が濁っているのは

本文

いつもの学校帰り、いつもの通学路。

「お嬢ちゃん、ここいらに詳しいナリか?」

突然かけられた声に、わたしは自転車を止めてしまいました。
そして、わたしがこの辺りに住んでいること、少しなら案内もできることを伝えました。

「じゃあ教えて欲しいナリが…ハセガワくんの家はどこナリ?住所が覚えられなかったナリよ」

この辺りのハセガワ…と言えば、悪評高い家です。わたしはそのことを教えてあげようと思いました。

「ハセガワさんのお家は今何か問題があるみたいで…頭のよくない弁護士?さんのせいでトラブルになったらしくて…」

そこまで言ったとき、目の前の顔が真っ赤になっているのに気づいた。何かまずいことを言ったのか、ハセガワさんの親戚の方なのかと想いを巡らせながらも謝ろうと思ったとき、

「子供というの生き物の視野が狭いのは仕方がないナリね」

すっ、と目を細めたその人が呟きだし、

「視野が広がるまで待つ?そんなの非効率的ナリ」

ムスッとした唇の端が歪み、笑みをたたえ、

「簡単に大人になれる方法があるとしたら…試す価値はあるナリよ?」

左手を伸ばし、掴み、

「当職が大人にしてやるナリ」

右手は刃物を掴み、
わたしを地面に引き倒し、
喉元に冷たい感触を与えながら、

「た…助けて…」

彼はわたしを汚した。





あの日の出会いは、私を変えた。
あの日の体験は、私を変えた。
あの日の全ては、私を大人に変えた。

見るもの全てが歪んで見える。
世界の全てが憎く思える。
この世の全てが汚く感じる。

そしてもちろん私自身も。

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