恒心文庫:夏の恒心園

本文

弟が16、私が17のことでした。

弟は、相手チームの悪いもの達に、ピッチャー返しされ、甲子園のマウンドで、負傷した次の回に降板しました。

立石監督が継投を告げられ、立った9回のマウンド。2点リードの緊張感が当職の腸を刺激する。
キャッチャーの小西先輩から「カーブでカウントをとる」とのリードをいただき、拝聴しました。
今が俺の投球のはじまりだ。
当職の投じたカーブはunknown...な軌道を描き、デッドボール。打者の顔色は何色か。
ノーアウト一塁。応援席の視線に中学時代を思い出す。
俺は投手だ、こいつらとは違う。そう思い込み次の打者に向かう。
反省を生かし、すぐにストレート、カーブで追い込む。
しかし三球目はファール。
ファール、ファール、ファール。
中々三振が取れない。
ついに十球目。外角にスライダーを投げる。認識(いしき)より内側に入った球であったが、フライを打たせることに成功。
しかし事件は起きるのだ。センター長谷川がまさかのエラー。これはいけない。君は走者を殺せるか。
ノーアウト一塁三塁。複数の走者がいるが全力投球。モーションを盗まれ、二塁を侵害された。
一打同点のチャンスに、身が震える。
「ボギー1!!しっかり投げろ豚!!」
小西先輩が怒っている。当職はあなたの大事な後輩ではなかったのですか。
ベンチと応援席からも声なき声があがる。
涙と大便を堪えながら、ストレートを置きに行く。

カキーン。

ではサヨナラHRニキ。

その日甲子園球場では、一つ多くサイレンが鳴り響いたという。

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