恒心文庫:初夏のセックス

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暑い。山岡は風通しの悪い法律事務所でひとり苛立ちを感じていた。まだ初夏だというのにこの暑さはなんだ。じりじりとブラインド越しに照りつける太陽、雨上がりの日特有の、じめじめと這い上がってくる湿った空気が余計に不快感を煽る。他に誰かこの気分を共有出来る相手がいれば良かったが、生憎この部屋には山岡一人しかいない。
「セックスしたら、自分が熱くなるんで暑さなんか気にならないっすよ」という、昨日後輩から投げかけられた言葉が気に障る。どうせお前もバキバキの童貞だろうが。そんな風に言い返してやればどれほど暑さが気にならなくなったことか!

苛立ちの収まらない山岡は椅子に凭れかかった。不運なことに、事務所のクーラーは一昨日壊れてしまったので、今は年代ものの扇風機一つで賄っている。
その事実を噛み締めた途端、山岡の怒りの矛先は事務所代表の唐澤の方に向いた。高給取りの親を持ち、アイドル鑑賞や競馬に耽溺する暇があるのに、どうして設備投資を疎かにするのだろう、この際だからいっその事お灸を据えてやろう。そう思った山岡は奥の冷蔵庫へと向かった。
併設してある冷凍庫を開くと、案の定その中で蠢く影を発見した。「中で一体何してんだウンコ漏らし」冷凍庫から唐澤を引き摺り出すと、そこにはアイスの食べすぎで顔を青白くした弱者男性が横たわっていた。山岡はぎょっとして、唐澤の肥大した腕に触れてみると、異様に冷たい感触を覚えた。まるでアイスのように冷えきった肌は、人間というよりもむしろ氷像に近く、体が冷えきっていることは明白だった。
「逃げろ!」と直感が訴えかけるが、みすみす仲間を見捨てる訳には行かない。

山岡は意を決して唐澤に歩み寄り、そして彼の冷えきった口内に熱の篭った自身の舌をねじ込んだ。 唐澤の唇は氷のように冷たく、山岡の体温を奪っていくようだったが、やがて二人の温度差がなくなっていくうちに、二人は互いの温もりを感じ始めた。
山岡は自分の体が次第に火照っていくことに気が付いた。先程までは不快だったはずの蒸し暑さが、いつの間にか快感へと変わっていくようだった。汗で乳首の透けた半透明のシャツを押し付ける度に、唐澤は乳首を勃起させて、切なげな声をあげながら悦んでいる。この男に、もっと強い熱を与えてやらねばと思った山岡は、とうとう唐澤のズボンに手をかけた。
唐澤の小さな仮性包茎が露わになる。
低体温を慮る山岡は優しくそれを擦ってやるが唐澤の方はそれでは満足出来ず、山岡の手を払い除けると、自ら包皮を剥き始めた。そのまま山岡の手を掴み、強引に扱かせ始める。
次第に陰茎の激しい痛みが和らぐにつれて、唐澤は亀頭からさらさらとした桃色の液体を垂れ流し、それを潤滑油にしてますます激しく手淫が行われるようになる。痒さのあまり、遂に我慢出来なくなった唐澤は自ら腰を振り始めた。
唐澤の息遣いが荒くなるにつれ、彼の性器も少しずつ膨張していく。山岡もその変化を目の当たりにしながら、自身も扱き上げる度に息が上がっていくのが感じられた。
山岡は、次第に唐澤の陰茎が自分の体温によって熱を帯びていくのを感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。
山岡の努力の甲斐あって唐澤が絶頂を迎えると同時に、さらさらとした桃色の精液が勢いよく山岡の顔に飛び散った。
唐澤の射精が終わる頃には、もう山岡はすっかり熱を帯びていた。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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