恒心文庫:刑罰

本文

「【殺人行脚】6都道府県で6人殺した男、ついに逮捕」
数年前、列島を震撼させた殺人鬼の話である。
その男の名前は、山岡裕明。東京大学を卒業し、程なく弁護士になったエリート中のエリート。
山岡が手にかけたのは、「千葉県松戸市六高台2-78-3に住む国士舘大学現代ビジネス法学科の陰茎」、
「北海道上川郡東神楽町ひじり野南二条4-3-9-101のフリーター」、
「福岡県福岡市城南区の無職」、
「神奈川県座間市栗原中央1-18-10ミオン栗原中央 202号室の生活保護受給者」、
「大阪府大阪市福島区福島7-20-18citytower西梅田4301の精神病患者」、
「東京都港区の掲示板荒らし」の6人。
いずれも前途洋々な男性。ナイフとおぼしき刃物でメッタ刺しという手口。
「鬼畜」「外道」「凶暴」…あらゆる言葉でも形容できない、山岡はまさに「悪」そのものだった。

山岡に司法が下した判決は「死刑」。
…ではなかった。「唐澤貴洋の刑」。
聞きなれない判決に傍聴席がどよめく中、勝手を知る被告席の山岡は、頭を抱えうずくまった。
顔はひどく青ざめ、身体中が小刻みに震え上がる。目の焦点は合わず、冷や汗が額に滲む。
その刹那、白いもみあげを蓄えた初老の男性が、山岡の腕を掴んだ。
抵抗する山岡。しかし、10人は居ようかという係員が、山岡を取り押さえ、法廷を後にしていった。

あれからどれくらい経っただろう。
「唐澤貴洋の刑」が世間に公表され、虎ノ門のビルから山岡の現状がリアルタイムで茶の間へと流れ続ける。老若男女が「刑罰」を目にできる。
モニターの向こうでは、死を懇願する男が、今日も小太りの「刑罰」を受けている。
新しく施行されたこの「刑罰」により、日本の凶悪犯罪が激減したのは、もはや言うまでもない。

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