恒心文庫:凌遅刑

本文

凌遅刑は知っている?
皮剥ぎの刑は? 鋸挽きの刑は?
人類が発明した惨たらしい処刑方法のことを考えるたび、僕はとても嫌な気分になる。

死刑は罪人を侮辱するものであってはならない。
死刑は尊厳のある速やかな死であるべきだ。
サンソンやギヨタン博士の開発した人道的な処刑方法のことを考えるたび、僕はとても晴れやかな気分になる。

ところで、凌遅刑――ゆっくりとこま切れにして殺す刑罰――にされたとある宦官の話がある。
その死骸の肉片は、宦官に恨みのあるものに配られたそうだが、憎さのあまりにその肉を食べるものがいたという。


「――知ってるか? カニバリズムは3つに分けられる」
同僚の弁護士を思い出す。情熱的なギターが鳴り響くバーで、彼は静かに語っていた。

「宗教的な意味を持って食べる奴。たいていは敵を食べる。虎を食べると虎の強さを身につけることができる、ってのと同じようなものじゃねえかな」
「ただの肉として食べる奴。そうやって生きるしかない奴もいたってことだ。兵糧攻めにあった城。飛行機事故での遭難者。ひどいもんさ」
「愛情表現として食べる奴。肉親が死んだ後に肉や骨を食べたりする。愛する者の霊を自分に取り込むっていう宗教的な側面もあるのかもな」
「あいつは――――」


あの人は、その3つのうちどれだったろうか。
賢さを手に入れようとした? ただ空腹だった? それとも、憎さだけではなくそこには兄弟の愛情が――。

――過去を考えるのはやめよう。

僕は、愛ゆえに。
ただ、愛するがゆえに。

今日の晩御飯も愛情たっぷりのハンバーガーだ。


「もうやめて……おねがいナリよ……」
「当職がなにをしたのでふか? ひろあきくん…… おこたえください……」

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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