恒心文庫:僕は、たかひろくん係を、やめる

本文

「子供の世話」というものは、とにかく手のかかるものである。
この歳になって僕は、そのことを身をもって知った。

僕が思うに、子供とは、頭が悪い癖に行動力だけはあり、本能と感情だけで暴れまわり、人の常識が通用しない。
つまりは、人語を解する獣である。
こんなものの面倒をみるなど、僕一人の手に余る。

さて、近年、核家族・共働きの家庭が増え、育児が世の母親に与える負担は増大するばかりである。
元来、子育ては一族や村などコミュニティの中で行われていたはずだ。
そんな大仕事を母親だからという理由で若い素人の女だけにまかせて良いものだろうか?

良くない。
きっと気が狂ってしまう。
そうでなければ殺してしまう。

僕も、よくもまあ今までこいつをナイフでメッタ刺しにして殺さなかったものだと感心しているところだ。
だけどもうそろそろ限界だ。
限界なので、やめることにする。

――僕は、たかひろくん係を、やめる。

一言ずつ区切って大きな声で宣言した。
とても素晴らしい気分になった。


「ひろあきくん!! どうしてそんなことを言うナリか!? 人は人を愛さなければならない」

顎の脂肪をぶるぶる震わせながら、たかひろくんが掴みかかってきた。
黙れ畜生。人語を喋るな。貴様のようなガキに愛のなんたるかが分かってたまるか。
もはや触れることすら苦痛である。たかひろくんの胸を思いっきり突き飛ばした。

「ひどいナリひろあきくん! 当職は君に人を傷付けるのではなく人を助ける人間になってほしい」

突き飛ばされたたかひろくんは股を広げて尻餅をつき、涙目になった。
彼の股間の小さなペニスを見ても、僕はなんの感情も沸き起こらなかったし、彼の言葉を聞いても僕の心には響かなかった。
僕にとって、もはや彼はヒトではなく、したがって彼を助ける義理はない。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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