恒心文庫:「お前、唐澤貴洋だろ」

本文

私は過去の過ちにより日本中から集団ストーカーされてしまう事態に陥っていた。
日に日に増す被害に遂には耐えきれなくなり、全身整形を決意したのである。
手術が終わり自身の姿を見ると以前とは全くの別人へと変貌していた
これでようやく平穏な暮らしを取り戻す事が出来るのだと私は小躍りした
過去を捨てこれからの生活を噛み締めよう─────
そう思った刹那の事

「お前、唐澤貴洋だろ」

痩せた眼鏡の男が私を指差して迫り来る
何故だ、何故…
私の見た目は前とは別人だ
足がつかない様に十分に警戒したつもりだ
ありとあらゆる配慮を行い絶対に特定されない様に努力したのに一体どうして…
はは、ははははは
当職の、私の自我は崩壊した

うわきっしょ
眼鏡の男はそう呟くとそこから立ち去る
そして道中、見かけた通行人を見つけると近付いて

「お前、唐澤貴洋だろ」

と絡む
通行人は怯えながら逃げ出す

知ってて知らん言うたら犯罪やぞ、男は散策に戻る

野良犬がフラフラと傍を横切った

「お前、唐澤貴洋だろ」

野良犬は不審者を見る目で男を眺めた

男は問う
おいお前ゴリホーモって知っとるか?
野良犬は何も答えない
男は野良犬を蹴飛ばし唾を吐きかけると、野良犬は驚き走り去った

・・・ゴリホーモも知らんのか

男が進むと電信柱が聳えていた

「お前、唐澤貴洋だろ」

自動販売機が静かに唸っている

「お前、唐澤貴洋だろ」

蛾が飛んでいる

「お前、唐澤貴洋だろ」

アスファルトの間に雑草が生えている

「お前、唐澤貴洋だろ」

ガラスに映る自分が居る

「お前、唐澤貴洋だろ」

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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