恒心文庫:風呂好きの王

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本文

谷のポリス「アネモス」の王オクトス・デーモニオス(在位AD9〜12)は、ローマのカラカラ帝と並び称されるほどに風呂が好きだった。在位中の彼の日課は、以下の通りである。午前7時に起床、すぐに沐浴、午前8時から午後5時まで哲学者たちの集う学堂で学び、そしてその後、午後7時頃から得意の演説を始める。演説中に豪勢な食事を取り、また薄荷の香る風呂にも浸かり、その様子を自慢することも欠かさず、すぐさま聴衆の前に躍り出る。なんと、これが翌朝4時にまで及ぶこともある。
彼が風呂好きとされるエピソードの最たるものが、12年春、ちょうど彼の王としての期間が終わる頃だった。直前に処刑されていた元老院議員クロニュソスの差し金で、彼の素性がまさに割れようとしていた、その時だった。何か都合の悪いことを言われたのか、オクトス王は、饒舌な、まくし立てるような演説を一旦止め、「風呂に入ってくる」と言ったまま、行方をくらましたのだ。野次飛ばしに来た聴衆たちも呆れかえった。それ以来、彼は演説を行わなくなった。民の間では、王が風呂を好みすぎるあまりに溺れて死んだのではないかと噂された。
それ以来のオクトス王については、アネモスの口承の通りである。疲弊した、無能なペルシア軍を呼んできたとか、本当に行方が分からなくなったとか。

出典
風吹けば名無し『オクトス・デーモニオス王の風ィ呂ソフィア』軟慈詠文庫、初版2016年8月31日

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