恒心文庫:銀杏

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本文

夜道を歩いていた時のことだ
冷たい空気を吸い込み、白い息を吐き出すと今が冬なのだと実感する。
南の夜空に上るオリオン座がそれを更に証明する。
澄み切った冬の空気は星を美しく瞬かせる。
惚けたように夜空を見上げながら帰路につく
俺の前に、何かが急に落ちてきた。

それは秋を象徴するもの、銀杏であった。
真冬になぜ銀杏が?悪臭を放つそれを訝しげに観察すると、さらに天から銀杏が落ちてくる。探せどあたりにはイチョウの木は見当たらず益々謎は深まるばかりだ。
ふと空を仰ぎ見ると、そこにはおまるに乗った唐澤貴洋が天をゆっくり進んでいた。
おまるを引いているのはケツに尻尾を模したものが突き刺さっているリャマみたいな男である。
底の抜けたおまるに鎮座する唐澤貴洋のケツから、銀杏がクソの代わりに放出されあたり一面をオレンジ色に染めていく
さっきまで瀝青色だった道路は悪臭を放つ
オレンジ色で埋め尽くされていた。
呆然と立ち尽くす俺を一瞥もせず貴洋は周りをオレンジ色に染めていきやがて姿を消した

オレが立ち尽くす場所だけ瀝青色が残っている。あたりは悪臭を放つ銀杏に覆われているが、そこだけが世界から切り離されたように瀝青色を残したまましんとしている。
夜のしじまに1人の男が立ち尽くす。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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