恒心文庫:行列のできるベーカリー

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 虎ノ門ヒルズを筆頭に近年目覚しい発展を遂げる街、虎ノ門。
 この街に今、連日長蛇の列が出来るという評判のベーカリーがある。
 その人気ぶりはオフィスビルの7階という立地の悪さを物ともせず、昼過ぎには全商品が売り切れてしまうほどだ。
 特に看板商品のカレーパンは、これを買うために他県からも人が押し寄せるという。
 筆者も1つ頂いたが、小麦の豊かな風味が感じられる生地とスパイスが効いていながら深みのあるカレーフィリングが絶妙にマッチし、確かに並ぶだけの価値がある美味しさだ。
 今回はそんな評判のベーカリー「スリーミリオンベーカリー」のオーナー、森氏にこのカレーパンの製造工程を見せていただけることになった。

 森氏と共に厨房にお邪魔すると、パン製造部門のトップである岩村氏(仮名)がカレーパンのためだけに使うという国産小麦「はつしも」を見せていただいた。
 「はつしも」は自社農場でしか栽培されていない貴重な品種であるらしく、芳醇な小麦の香りが特徴だという。
 さらにこの香りを最大限活かすために種子のまま入荷し、店内で挽いて鮮度の良い小麦粉を作っている、とのことだ。
 実際に厨房の奥を覗くと、石臼を使いニタニタと楽しそうに小麦を挽くスタッフを見ることが出来た。
 小麦粉が出来上がると、生地製造担当の唐澤洋氏が裸一貫で漏斗をくわえ、そこに岩村氏(仮名)が手際よく小麦粉を流し込んでいく。
 唐澤洋氏の体内には「デリュウ種」という天然酵母種が存在し、彼に小麦を流し込めばそのまま腸内で発酵、あの風味豊かな生地が出来上がるのだ。
 小麦粉の流し込みが済むと、唐澤洋氏の尻穴にエイナスストッパー10で蓋をし、暗室で生地の発酵を待つ。
 「発酵には30分ほどかかりますから、その間にカレーを作りますよ。」
 カレーフィリングの素材には、人参やじゃがいもといったオーソドックスな野菜と、10種類のスパイスを独自配合したオリジナルのカレー粉を使う。
 それらの素材をトレーにひと通り用意し、カレー製造担当の唐澤貴洋氏が一心不乱に頬張っていく。
 ひと通り平らげた後、しばらくすると唐澤貴洋氏の身がプルプルと震え出すので、それを見た岩村氏(仮名)がすかさず彼の尻の前にボールを添えて待機する。

 「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」
 唐澤貴洋氏の絶叫と共に、尻から粘度の高いカレーフィリングがボトボトとボールに落ちていく。
 折角なので出来立てのカレーフィリングを試食させていただいたが、意外にも苦味やすえた臭いが漂う不思議な味わいであった。
 「カレーだけでは少しクセが強いんです。でもあの生地と合わせると、完璧な味わいになるんですよ。」
 気づけば唐澤洋氏に小麦粉を流しこんでからちょうど30分ほどとなっており、我々は生地の発酵具合を確かめに向かう。
 暗室の片隅で座り込んでいた唐澤洋氏は、先程見た時から何倍にも膨れ上がった腹部を丁寧に何度も何度もさすっており、さながら出産を控える妊婦のようだ。
 「しっかり発酵していますね。さて、生地を取り出しましょうか。よく見ていてください。」
 森氏はそう言うと、唐澤洋氏の膨れ上がった腹部めがけて勢い良く踏みつけた。
 「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」
 彼の絶叫が響き渡ると同時にエイナスストッパー10が弾け飛び、尻からメリメリと純白のパン生地が顔を出す。
 その白さは、唐澤洋氏のもみあげにも負けない輝きを放っている。
 パン生地を全て取り出したら厨房に戻り、生地に混ざったコーンやニラを丁寧に取り除いた後、フィリングを包んで揚げていく。
 こうして出来上がったカレーパンはすぐさま店頭に並ぶが、流石看板商品というだけあり、ものの数分で完売してしまう、圧巻の売れ行きであった。

 ひとつひとつの素材に徹底的にこだわり、製造過程でもあらゆる手間暇を惜しまない。
 それこそが並んでも食べたくなるパンを生み出す秘訣であるのは間違いないが、森氏はさらに「スタッフの育成も大切です」と説く。
 事実、森氏は今回の取材中にもスタッフへの教育を怠らず、岩村氏(仮名)が間違った油の温度でカレーパンを揚げようとした際、直に油の温度を確かめさせる指導を行っていたのが印象に残っている。
 また障害者雇用にも熱心で、カレー製造担当の唐澤貴洋氏や小麦粉を製造していた小関直哉氏のような知的障害者でも「しっかり教育すれば問題はない」として別け隔てなく雇用しているそうだ。
 こうした社会貢献にも取り組む姿勢は、森氏の情熱の賜物と言って良いだろう。

 常に行列の絶えない人気店ゆえ、気軽に買いに行く、というのは難しいかもしれない。
 しかし一口噛みしめれば、並んでいた時間なんてきっと忘れてしまうほどの、至福のひとときを味わえる。
 「スリーミリオンベーカリー」はパン好きにもそうでない人にもお勧めできる、まさに「名店」と呼ぶにふさわしいベーカリーであった。

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