恒心文庫:唐澤洋の秘密
本文
唐澤洋には人に言えない秘密がある。
それは肛門が炊飯器が入るぐらいの緩さであることだ。
そうなってしまったのは言わずと知れた、貴洋の出産が原因だ。
難産だった。逆子です、と聞いたときから覚悟はしていた。
しかし、絶対に肛門から産んでみせるという意思は硬かった。
プール通いの日々も辛くなかった。
嫌いな野菜も摂る生活も乗り越えられた。
この子は絶対に、将来凄い子になるという確信があった。
胎内からの蹴撃に、それを感じさせるものがあったからだ。
そして、遂に産んだのだ。
痛かった。生涯一、涙を流した。
貴洋もまた生涯一の血を浴びただろう。
貴洋は赤子ながらとてつもなく頭が大きかった。
聖なる血液を受けたロンギヌスとでも言うべき神々しさを放っていた。
我が子は歓喜の泣き声をあげたのだった。
唐澤洋にはこの計り知れない思い出があるのだ。
唐澤洋には秘密がまだある。
あの時の感動を味わいたくて、ダチョウの卵を腸内で暖めたこと。
そうして、貴洋の弟を産んだこと。
それを貴洋は知らない。
タイトルについて
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。
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