恒心文庫:唐澤って何?

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本文

コンビニで買い物をしていると店員が言った。
「唐澤どうしますか?」
私は唐澤を知らなかったので適当に流した。

同僚と話をしているとその名前は出てきた。
「・・・で唐澤をさ・・・」
私は唐澤を知らなかったので少し気になりつつ聞き流した。

親と電話をしているとその名前が出てきた。
「珍しく唐澤か?」
とうとう気になって聞いた。
「あのさ、唐澤って何?」
答えは来なかった。電話が切れた。

次の日出社するとその名前が飛び交っていた。
「大唐澤・・・に連絡」「資料は唐澤・・・」「ああ唐澤はね、・・・」「唐澤・・・」「唐澤・・・」
私は聞いた。
「唐澤って何?」
誰も答えなかった。誰もいなかった。

私は無職だったので家に帰って一日中ネットをした。
あの名前で検索すると画面は真っ黒になった。そもそも私はスマホを持っていない。

暇だったので家を出てぶらぶらすると唐澤があった。私は唐澤を下っていった。
すべてが唐澤であり、唐澤は絶対だった。
世界の真実が惜しげもなく曝け出され、唐澤洋が魂を生み出す音と唐澤貴洋が肉体を生み出す音が反響していた。
女性が出産のときに苦しみのあまりに身の毛もよだつような叫び声を上げるのは私も知っていたが、これほどの叫びは聞いたことがなかった。
一体魂を、肉を、無から生み出すとはどれだけの苦しみなのだろう。
私は白い肉の塊の間を歩き、揺れる靄の中を通り過ぎた。
思索にふけりながら唐澤を上り、世界の上に上塗りされた薄っぺらい虚構の世界に戻った。
繁華街から唐澤しい響きが聞こえる。貯金があるうちに職を探した方がいいだろう。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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