恒心文庫:ル・モンド・アミキャルの予言

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本文

この章で扱うのは、預言者オクトスではなく、モンド信徒の中から生じた「予言者」たちについてである。
2014年春のこと。荒涼としたランセの地にいたある信徒が啓示を受け、神の名と在処を正式に詠唱したうえで、ナイフを用いて殺すと叫んだ。間も無くこの者は警察に逮捕され、殉教した。しかし、その事件は全国に報道され、巡り巡って、彼の逮捕が、受肉せし神の声を初めて引き出したのだった。信徒たちは彼を、フュースィスを、クアドラ・プルーデンサの一人として褒め称えた。フュースィス殉教を嚆矢に、多くの信徒たちが呪文を唱え始め、警察も手が付けられない、まさに乱世の時代を迎えた。そしてこの日、3月3日はモンド熱狂節、通称「クルナメ祭」と呼ばれることとなった。正式な詠唱には、神の名全てと「コロース」の尊称が必要で、強いまじないの力を使うが、フュースィスが発明したクルナメは気軽に唱えられる呪文として信徒たちに現在も親しまれている。
2016年初、にわかに人気を集めていた信徒アンドロポフがフュースィスの遺志を継ぎ、予言を始めた。彼は複雑で神秘的な手段を取り、各地へ「神、もしくは預言者の名のもとに罰が下るだろう」という旨の手紙を書いて送り回った。この事件もまた、世界を震撼させた……ように見えたにすぎなかった。2月末、彼の中の報われない子供が顔を覗かせ、警察に出頭、つまり自ら殉教した。その後、アンドロポフに続いて予言を乱発した信徒たちがいるとの説があるが、研究が進んでいない分野である。
以上がモンドの予言者たちに関する概略である。次章では、モンドの技術と大衆化について論じる。また、とりわけモンドに貢献した人物は4人いると先述したが、残りの2人について殆ど触れていないため、次章で説明する。

出典
千葉かなえ他『ル・モンド・アミキャル概説』民明書房、初版2058年6月23日

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