恒心文庫:けんま民の誕生

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本文

スマートフォンで弁護士の動向を観察する掲示板を見ながら運転していると不快な金属音がする。
瞬時に自分の身体が後方への加速度を感じ、そして硬いものに押し返される。
目の前には視界乱すひび割れた硝子、そして歪んだ黒塗りの高級車。
目の前の役割を失った硝子がそうさせているのか、実際に私のせいでそうなってしまったのかの判別ができない。
「君、車から降りなさい」
ドア越しに白髪の顔の整った男性が私に声をかけているのが分かる。
完全に私の過失だ、その自責の念は私を素直に車外へと導く。
「顔を上げなさい」
彼の声は優しい初老の紳士の声だが、どこか威厳を感じさせるものだった。
声に従い声を上げると、顔立ちの整った紳士が目の前に立っていた。
「それを見ていたのか?」
手放さなかったスマートフォンを見咎められ、私は自分自身を責める。
ああ、私は無職になってしまうだろう。臥薪嘗胆民と馬鹿にしていた奴らと一緒になってしまう。
そう思うと足が自分の意思とは関係なくガタガタと震えだしていた。
「怯える事はない、私は慈悲深いからね」
彼は私の頬に手を添える。私は許しを請うようにその手に触れる。
「付いてきなさい、その車は処分しておこう」
彼は私の手を引く。
「もちろん警察には内緒にしておこう、私はそれくらいの権力はある」

彼の事務所に付くまでの事は、しっかりと覚えていない。
事故を起こしてしまってパニックになった脳がしっかりと機能していなかった。
本当に許してもらえるのか、そんなわけはないだろう、私の中に存在する二つの意見が衝突を繰り返しまともに機能していなかったのだ。
彼の事務所で彼は私のスマートフォンを見ていた。そして悪魔のような笑みを浮かべて私に近づいてきた。
私は彼に押し倒され、ズボン越しに股間を撫でられていた。
「奴の息子に付きまとっているのか?」
―――事故に加えて、こんな誹謗中傷をしていたことが公になったらまずいだろう?
彼の言葉はそういう威圧を含んでいた、だがどこか淫靡なもので、私のペニスは勃起をしており、さらにカウパーが下着を濡らしていた。
ソープ嬢、いわば現代の娼婦達の声色とは全く正反対の声だが、彼の声は恐怖という経路を侵入して私の性感に触れていた。
「私は若い子が好きでね、君みたいな若い子が快楽で咽ぶところを見るのが好きなんだ」
身体の自由が利かない、股間に寒さを感じたと思った刹那、すでに人間の内側特有の暖かさに包まれていた。
サキュバス、西洋の淫魔に精を絞られるというのはこのような感覚なのだろうか。
恐怖に支配されながら快楽を一方的に与えられる。
これまで手淫や性交で得てきた快楽の何倍もの快楽が私の脳に注ぎ込まれる。
彼の精を絞り出すことに特化した口技で、私は信じられないほどの精を吐き出していた。
その生命の片割れを彼は食通のように味わうと、満足そうな顔をこちらに向ける。
気が付けば私は犬のように這いつくばらされており、肛門に何かを感じる。
成程、次は私が雌になるのか、と妙な納得をしていた。
「あまり硬くはならないが、その分君を楽しませることはできる、痛みよりも快楽のほうが大きいだろう?」
口から雌のような声が出る。脳が染められていく。自分の陰茎からは粘性の高い液体が垂れ流される。
彼の物が私の内側を出入りするたびに、自分が男か女なのか分からなくなる。
彼の衝動を受けて気持ちよくなっている自分は本当に男なのだろうか。
初めてなのに痛くない、気持ちいい、こんなのははっきり言ってフィクションだと思っていた過去の自分はすっかり彼の色に染まっていた。
彼の前後するペニス、私の身体を舐めまわす舌、全身で彼を感じて私の脳が麻痺していく。
彼が腰の動きを止め、微かに震えているのを感じると私の胎内が暖かくなっていくのを感じる。
中に出されるというのはこういうことなのか、脳に残った微かな理性がそうやって現状を理解していく一方、自分の中の獣は床に精をぶちまけていた。

「車は処理した、警察にも内密にするように言っておいた」
彼がそう冷たく私に言い放ったときに、私は快楽を求める雌の顔をしていたのだろうか、彼は口角を吊り上げる。
「もっと欲しいのか?それなら私に利益があるようなことをしてもらわないとな」
―――奴と奴の息子に嫌がらせをしろ。
付きまとって嫌な思いをさせるのだ、君がこれまで掲示板の向こうで見ていた奴らがしていたような事をするのだ。
君はこれからけんま民だ。―――けんま犬のほうが正しいか?

私は時間があれば虎ノ門の事務所に張り付くようになっていた。
奴らの写真を撮り、ネットにばら撒くために。
あのブルドッグとその息子の無能は嫌な思いをして仕事どころではなくなるだろう。
生放送をし、奴らが嫌な顔をしているところを想像し、ほくそ笑む。
その一方、ご褒美に期待し股間を膨らませる。
私は忠実な僕。奴らに嫌な思いをさせてやる。

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