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恒心文庫:臭う象

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

人々は感嘆していた。多摩川の河川敷に群れを成して老いも若きも口々に感嘆の息を漏らしていた。
そこには像が建てられていた。年若い少年の裸像である。それはまるでダビデ像の様に雄々しく、そして花びらがこぼれる様な可憐な笑みを薄っすらと浮かべている。その台には厚史と彫られている。
そうして人が人を呼び、騒ぎを聞きつけた取材陣が集まり始めた頃、影で憎々しげに爪を噛む者があった。
それは貴洋である。貴洋は、眉間にシワを寄せて像を睨んでいた。貴洋は裸像のモデルとなった厚史の兄であり、裸像の作者でもあった。というのも、貴洋は弟を憎むあまり、彼をコンクリート漬けにしたのである。予定ではすでに多摩川の底に沈んでいるはずだったのに。貴洋は爪を噛み、露出した甘皮をしゃぶる。弟をコンクリート漬けにするのは流石に骨が折れたので、彼は一休みしたのだ。そしたら父が起こしてくれなかった。
そのせいで、弟はまた人の目を集めている。いつだって弟は当職より注目されていた。当職はいつも影だった。学校も、親戚も、親でさえも。弟の比較対象としてしか当職を見ないのだ。
これで自由になれると思ったのに。これで当職に光が当たると思ったのに!
当職は耐え切れず走り出した。
「当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て当職を見て」
当職の心からの叫びに人混みが振り向いて叫ぶ。人の目が当職の裸体に容赦無く突き刺さる。見られている、見られている!当職は腹の底ふつふつと湧き上がる喜びをそのままに人々の頭を大きく飛び越えると裸像となった厚史に向き合う様にして陣取る。
そして瞬時に左手を腰にし右手を上に構え、声なき声を上げながら口を喝と広げた。決まった。まるで仁王像の口があいてる方の様な威圧感とカリスマ性だ。渾身のポーズが太陽の下、人々に晒されている。貴洋の身が震える。
しかし予想に反して、貴洋に投げかけられたのは数多くの怒号と無数の石であった。老若男女問わず腰を使って放られた力ある礫が、貴洋のペニス、その包皮にぶち当たる。厚史で眼福だったところに、突如汚物を見せつけられたその憎しみは計り知れない。石が包皮をかすめ、亀頭が露出する。雪が降り積もったようにグラデーションがかかっているその亀頭は、事実ちんカスまみれである。相当あらって無いのだから臭い。人々は憎しみか悪臭の為ともつかぬ怒りの形相で勢いを増して石を投げる悪口を投げかける。ふと、放物線を描いて飛んでいく石の中の大ぶりな一つが呆気にとられる貴洋の腹に容赦無くめり込む。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!! !!!!!!!!
うんこが貴洋の肛門から飛び出す。人々は構わず石を投げ、またその幾つかが貴洋の腹にぶち込まれていく。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!! !!!!!!!!
うんこが叫びの後を引き継ぐように散らされる。まさに阿吽の呼吸、テンポよく叫びとうんこが繰り返されていく。
人々は熱狂していく。いつしか自分たちがなぜ貴洋に石を投げているのか、罵詈雑言を浴びせかけているのかも忘れて。今では彼らがかつて感動し涙した裸像ですら砕いてその欠片を放っているのだ。
“悪いものたち”は今も石を投げつけている。

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