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恒心文庫:良太くんの心象風景

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本文

「おいで りょうた。わたし と いっしょに コーヒー を のもう。」
ゆめ の なか の ような ばしょ。あまい こえ が きこえて くる。ぼく は その 「わたし」 を みた。その しゅんかん めのまえ が しろく ぐちゃぐちゃに なった。その ちいさな おんなのこ は むかしに しんだ ぼく の かあさん に うりふたつ だった。カップ を さしだして くる ほそい うで。なつかしい はなうた。コーヒー が かおって くる。しおみず の におい に まじって。おんなのこ は やさしく ほほえむ。うながされる ままに ぼく は コーヒー を ひとくち のんだ。そうして にがくも あまい コーヒー の あじ が ひろがる の と どうじに ぼく の だいすき だった もの こわかった けいけん いろいろな おもい が わきあがって きた。

きみ は こんなん を のりこえて ここまで きたんだね。
どんなに つらい と おもった こと でも きみ は その いのち の ちから で はねのけ どくりつ を たもって きた。
きみ が おもいなやみ 「よ」 を はかなみ
そして いま ここ に いきている こと。
わたし は しっている よ。
わたし は いつも きみ の なか に いる から。
きみ の 「ぜん」 も 「あく」 も わたし は みてきた。
たしかに きみ は ひどいこと とりかえしの つかない こと も たくさん してきたね。
でも きみ は わるいこ じゃないんだよ。
きみ は わたし の いちぶ。
きみ は わたしたち の いちぶ。
きみ が いきている こと。
ただ それ だけで きみ は よいこ。
だから わたし は きみ に こころから わらって ほしいんだ。
そして まえ を むいて きみ の おもうまま すすんでいけば いい。
うまれてきて くれて ありがとう。
ながい たびじ に さちあれ。

いつしか、夢のような場所からいつもの独房に戻っていた。パステルカラーから灰色へ。手元には味気ない紙コップ。ぬるくなったコーヒー。もう一口飲んだ。僕は……とだけ呟く。涙の味と幾ばくかの希望のフレーバーが薫った。生きている、ただそれだけで良いんだ。

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