恒心文庫:教徒A
本文
お前に出会ったせいで、俺の人生ボロボロだ。
今夜もまた、惰性でカラケーに張り付きながら、Twitterの更新ボタンを連打する。
生意気なガキと無能な弁護士を追っかけること数年。
奴らは俺の人生に浸蝕し、俺はそれを積極的に享受した。
霞んだ眼で薄暗い部屋の中を見渡す。床に脱ぎ捨てられた衣類。
机に乱立する空き缶。幾つも転がるゴミ袋にはコンビニ弁当のかす。
大学には一年前から行ってない。卒業の単位は絶望的だ。
昨日は卒論の最終提出日だったらしい。
就職先を探す時期はとっくに終わったはずだ。
たまに来る親の電話には、脂汗をかきながら対応する。
友達はみんな疎遠になった。彼女はいない。気軽にふざけ合える人も、優しく甘えさせてくれる人もいない。
何もない。
将来についての叫び出したくなる不安は、恒心に没頭する間に消えて、無くなっていく。
しばらく風呂に入ってないせいでべたつく髪を掻きながら、パソコンを眺める。
何人かの逮捕者が出ても、相変わらずモニターの向こうでは数多の誹謗中傷が飛び交っている。
願わくば、尊師、何もかも投げ捨てて恒心教徒に立ち向かって欲しい。
どんな手を使ってでも、教徒を根絶やしにすると声明を出して欲しい。
けんまする者は、問答無用で逮捕すると言って欲しい。
すぐに駆けつけるから。
お前にとって人生ってなんだ?弁護士という肩書と立派な家柄が全てなんだろう?
弁護士バッチを放り捨てて恒心に向き合った時が、尊師の人生の終わりだ。
互いに、自分の人生を破滅させながら相手に尽くす
これで相思相愛じゃないか。
そのためには、尊師にもっと嫌な思いをさせてあげないとな。
でも俺にはけんまする勇気もない。絵心もない。MMDの技術も、ドローンを買う財力もない。
何も、ない。
頭の中にかかった霞みが、ふいに晴れていく様な気がして胸が冷える。
気が付くとカーテンの隙間から白んだ空が見えた。
もう夜明けか、そろそろ寝ないと
カーテンを完全に締め切って、俺は万年床に潜り込んだ。
世界の終わりを願って