恒心文庫:六本の木の祟り
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本文
江戸の外れ。その町は幕府の手が及ばず、雑然としていた。家、店、田圃、灌木、診療所、神社、家、家、田圃、宿屋、田圃、茶屋、家、薬屋、祠、小川……道もあって無いようなものである。その寂れた町には、六本の松の木があった。綺麗な円を描いてそそり立つその松を、その町の住人は御神木として崇め奉っていた。
ところが、ある日のこと。この平和な町に、幕府の役人がやってきた。そして、このように言った。この町も江戸の一部であるからして、区画整理されなければならない、差し当たって、その六本の松が邪魔になるため切らねばならない。役人の心無い発言に、百姓たちは猛反対したが、役人が刀をちらつかせると、彼らは黙って頷くことしかできなかった。
程なくして、この町も江戸の街として「綺麗」になった。しかし、その内実は穏やかではなかった。御神木を切ると言ったあの役人は、この街を見ることなく腹を切った。その協力者であった植木屋たちにも手が曲がらなくなるもの、口がきけなくなるものもいた。町に元々住んでいたものたちも、悪夢を見ることが増えたという。六本の木を切った、それによって祟りが生じた。
町の内外の宮司たちの尽力で、祟りは弱まり、風評も薄れたが、現地には未だその説話が残っているという。
そしてその街は六本木と名付けられた。この謂くのある街に2018年、ある禍々しい霊障を持った三人の男が越してくるという。300年前のあの惨劇が繰り返されないことを願うばかりだ。
公会堂松枝『江戸のまち縁起 六本木』巫山戯文庫、初版1984年8月12日、改訂版2018年4月11日
リンク
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