「東京地方裁判所平成30年(ワ)第14569号」の版間の差分

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=== 主文 ===
=== 主文 ===


被告は,原告に対し, 50万円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 <br>
被告は,原告に対し, 50万円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 <br>
2 原告のその余の請求を棄却する。 <br>
2 原告のその余の請求を棄却する。 <br>
訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。<br>
訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。<br>
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 <br>
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 <br>


=== 事実及び理由 ===
=== 事実及び理由 ===


==== 第1 請求 ====  
==== 第1 請求 ====  
被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。  
被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成30年2月21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。  


==== 第2 事案の概要等 ====  
==== 第2 事案の概要等 ====  
1 本件は,弁護士である原告が、被告に対し,被告が,インターネット電子掲示板サイト「5ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)内において,原告の名誉を毀損する投稿をしたことにより,原告が著しい精神的苦痛を受けたとして,不法行為(民法709条、710条)に基づき,慰謝料150万円及びこれに対する上記の投稿がされた日である平成30年2月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。  
1 本件は,弁護士である原告が、被告に対し,被告が,インターネット電子掲示板サイト「5ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)内において,原告の名誉を毀損する投稿をしたことにより,原告が著しい精神的苦痛を受けたとして,不法行為(民法709条、710条)に基づき,慰謝料150万円及びこれに対する上記の投稿がされた日である平成30年2月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。  




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(1)当事者<br>
(1)当事者<br>
原告は,東京都杉並区在住の弁護士である。原告は,インターネット関連紛争の処理を主要業務としており, インターネット上で名誉毀損やプライバシー侵害を行った者を特定して,その法的責任を追及している。原告は, かつて,守谷市民法律事務所に在籍していた。(甲6,争いがない) <br>
原告は,東京都杉並区在住の弁護士である。原告は,インターネット関連紛争の処理を主要業務としており, インターネット上で名誉毀損やプライバシー侵害を行った者を特定して,その法的責任を追及している。原告は, かつて,守谷市民法律事務所に在籍していた。(甲6,争いがない) <br>
被告は,名古屋市在住の男性である。(争いがない) <br>
被告は,名古屋市在住の男性である。(争いがない) <br>


(2)被告は,平成30年2月21日,本件掲示板に,別紙投稿記事目録記載のとおりの書き込み(以下「本件記事」という。)を投稿し,不特定多数人の閲覧に供した。(甲2,争いがない)  
(2)被告は,平成30年2月21日,本件掲示板に,別紙投稿記事目録記載のとおりの書き込み(以下「本件記事」という。)を投稿し,不特定多数人の閲覧に供した。(甲2,争いがない)  




3 本件の争点は,本件記事が原告の社会的評価を低下させるか及び損害の額であり,当事者の主張は次のとおりである。<br>
3 本件の争点は,本件記事が原告の社会的評価を低下させるか及び損害の額であり,当事者の主張は次のとおりである。<br>


(1) 原告の主張<br>
(1) 原告の主張<br>


ア 本件記事が原告の社会的評価を低下させるかについて <br>
ア 本件記事が原告の社会的評価を低下させるかについて <br>
本件記事は,原告が部下に暴行した上, 熱湯を頭に浴びせかけるなどして全治3週間のケガを負わせた傷害の容疑で逮捕されたとの虚偽の事実を摘示するものであり,原告の社会的評価を低下させる。
本件記事は,原告が部下に暴行した上, 熱湯を頭に浴びせかけるなどして全治3週間のケガを負わせた傷害の容疑で逮捕されたとの虚偽の事実を摘示するものであり,原告の社会的評価を低下させる。
イ 損害について <br>
イ 損害について <br>
原告が被った精神的苦痛を金銭に評価すると,150万円を下らない。 <br>
原告が被った精神的苦痛を金銭に評価すると,150万円を下らない。 <br>


(2)被告の主張<br>
(2)被告の主張<br>
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==== 1 争点について  ====
==== 1 争点について  ====
===== (1)本件記事が原告の社会的評価を低下させるかについて =====
===== (1)本件記事が原告の社会的評価を低下させるかについて =====
 本件記事は,原告が2月19日午後6時から午後8時45分頃までの間, 守谷市民法律事務所内で部下の男性を暴行し,ストーブにかけてあったやかんの熱湯を頭に浴びせかけて全治3週間のケガを負わせたとして傷害の容疑で逮捕された事実を摘示したものであって,原告の社会的評価を低下させることは明らかである。<br>
 本件記事は,原告が2月19日午後6時から午後8時45分頃までの間, 守谷市民法律事務所内で部下の男性を暴行し,ストーブにかけてあったやかんの熱湯を頭に浴びせかけて全治3週間のケガを負わせたとして傷害の容疑で逮捕された事実を摘示したものであって,原告の社会的評価を低下させることは明らかである。<br>
 そして,被告は,本件記事の違法性阻却事由について何ら主張立証しない<ref>犯罪行為など名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合には、真実性の証明による免責を認められる。</ref>。 かえって, 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事に記載された暴行及び逮捕の各事実はいずれも虚偽であると認められる。 <br>
 そして,被告は,本件記事の違法性阻却事由について何ら主張立証しない<ref>犯罪行為など名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合には、真実性の証明による免責を認められる。</ref>。 かえって, 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事に記載された暴行及び逮捕の各事実はいずれも虚偽であると認められる。 <br>
 よって,本件記事は原告の社会的評価を低下させるものであって,被告は不法行為責任を負う。
 よって,本件記事は原告の社会的評価を低下させるものであって,被告は不法行為責任を負う。


===== (2)損害の額について =====  
===== (2)損害の額について =====  


 前提事実並びに証拠(甲2,3,6)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事は,不特定多数人がインターネット上で容易に閲覧することのできる本件掲示板に,原告の実名や, かつて所属していた法律事務所を挙げて,あたかも実際にあったかのような具体的な態様の暴行行為を摘示し,原告が傷害の容疑で逮捕されてその容疑を認めた旨の事実を摘示している。このように,本件記事を読む一般読者は,本件記事記載の事実があったかのような印象を強く受けるものと認められ,原告に対して著しい社会的評価の低下を招くものであるといえる。<br>  
 前提事実並びに証拠(甲2,3,6)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事は,不特定多数人がインターネット上で容易に閲覧することのできる本件掲示板に,原告の実名や, かつて所属していた法律事務所を挙げて,あたかも実際にあったかのような具体的な態様の暴行行為を摘示し,原告が傷害の容疑で逮捕されてその容疑を認めた旨の事実を摘示している。このように,本件記事を読む一般読者は,本件記事記載の事実があったかのような印象を強く受けるものと認められ,原告に対して著しい社会的評価の低下を招くものであるといえる。<br>  
 また、証拠(甲7ないし12)によれば,原告は,本件記事の発信者を特定するために
 また、証拠(甲7ないし12)によれば,原告は,本件記事の発信者を特定するために
発信者情報開示請求を行うなどの被告の特定のための対応を余儀なくされたことが認められる。<br>  
発信者情報開示請求を行うなどの被告の特定のための対応を余儀なくされたことが認められる。<br>  
 さらに, 上記前提事実(1) アのとおり,原告は, インターネット上の名誉毀損行為に対する法的責任を追及する紛争処理を業務の一環として行っているところ,被告は原告とは一面識もなく(甲6),本件記事の掲載は,上記業務 を行う原告に対する嫌がらせの側面を有していることが強くうかがわれる。 <br>
 さらに, 上記前提事実(1) アのとおり,原告は, インターネット上の名誉毀損行為に対する法的責任を追及する紛争処理を業務の一環として行っているところ,被告は原告とは一面識もなく(甲6),本件記事の掲載は,上記業務 を行う原告に対する嫌がらせの側面を有していることが強くうかがわれる。 <br>
 以上の事情を勘案すると,被告が謝罪の意思を示している(甲12,こ1)ことを考慮しても,本件における慰謝料の額は50万円を下らない。
 以上の事情を勘案すると,被告が謝罪の意思を示している(甲12,こ1)ことを考慮しても,本件における慰謝料の額は50万円を下らない。


==== 2 結論 ====  
==== 2 結論 ====  


よって,原告の請求は上記の範囲で理由があるから,その範囲で認容し,その余の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 <br>
よって,原告の請求は上記の範囲で理由があるから,その範囲で認容し,その余の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 <br>


東京地方裁判所民事第50部<br>
東京地方裁判所民事第50部<br>