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「恒心文庫:新事業」の版間の差分

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>鬼畜康太
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>貴洋のホルマリン漬
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帰ってパーティでも開こうかしら。  
帰ってパーティでも開こうかしら。  
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== タイトルについて ==
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。


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2022年8月5日 (金) 20:12時点における版

本文

 私が両親と妻を連れて天津租界に移住してから5年ほど経つ。
会社の新事業のためにと言って連れてきたわけだが、実のところその新事業というのは麻薬の密売である。そもそも私の会社である「ネクストツプエデユケーション株式会社」はほとんど実態がない。
隠してある口座預金が底をつきかけた時に、たまたま中等学校時代の悪友から天津租界での麻薬商売の話を持ちかけられたのが幸いだった。
移住した初めの頃はしょっ引かれるのを危惧して、現地の小僧に麻薬が入った鞄を持たせて配達させるなどしていたが、憲兵の取り締まりが緩いことが分かった。
警察のご厄介になるような犯罪は決してしないという学生の時の思いはどこへやら、私は租界でやりたい放題やった。
路地で現地の支那人に言い値で麻薬、それも質の悪い物を売りつけてるのを見られてもお咎めは無いし、多少賢そうな現地人に社名よろしく麻薬取引云々についての教育をすることもあるが、これも摘発されない。
内地は不景気だと言うが、私の懐は純粋な利益で5000円くらい入ってくるからちっとも凍えていないし、息子たちも欧州で元気にやっている。40代にもなって狭い家に暮らし、転職を繰り返していた頃が嘘のようだ、私は相当な大器晩成人間なのだろう。
 だがここ最近、周辺の様子がおかしい。
どうやら義賊を騙る悪辣な連中が我々の商売を邪魔しているらしい。20代30代40代くらいの、おかしな奴らがやっているのだろうと思う。
私も事務所の玄関の鍵穴に米を練ったものを詰められたが、不審な人物が一日中住居周辺をうろうろされている同業者に比べたらまあマシである。
 このまま放っておけば収まるだろうなどと煙草をふかしながら朝刊を読んでいると、家族3人共が私の前に現れた。
日本にいた時に見た鬼瓦のような顔をしていた気がするが、あまり覚えていない。
「あんた。どうしようもないくらい救いようが無い間抜けだね」
と母さんが怒り始めると、妻が俯いたまま鞄を見せてきた。
寡黙な父は子供がどうのこうのと呟いていたが、震えていたから母同様怒っていたのだろう。
状況から察するに、どうやら私の商売がバレてしまったらしい。それも自身の会社でやっていた配達業務で。
 頭がクラクラしてきた。これからどうすれば良いのだろう。
怒り狂った家族が私を内地に送還して逮捕するように仕向けるのだろうか。
欧州にいると言っていた息子たちは、実はこの辺りに潜伏していて、あいつらがここに配達するように仕向けたのではないか。
あぁ。ああああぁああ、ああ。あたまがぐるんぐるんしている。
ぱぱぱぱぱぱぱぱ。
「うもおおおぉぉお、やだやだやだやだ。ぼくのじんせいはめつしたあぁぁぁ」

ーーー嘉之さん、ご臨終です。
その言葉を聞いたところで私は特に悲しくもなかった。義理の両親も真顔だったし、息子たちに至っては晴れやかな顔さえしている。
5年くらい前にインターネット上のトラブルに巻き込まれただの言い出してからおかしくなった。
よく分からない男性に対しての悪口をしょっちゅう吐くようになり、正義のための訴訟とか言って家族の金を持ち出した挙句に敗訴。
敗訴、敗訴、敗訴続きでもともとおかしかった旦那はついに精神崩壊。家族はバラバラになった。
精神病院に入院させたばかりの頃は見舞いに行ったりもしたが、あいつは「にかいは精神部王なりを」とか、訳の分からないことばかり言っていたからそれもやめた。
やっとこの時が来てとても嬉しいし、苦しんで死んだらしいので大満足だ。
帰ってパーティでも開こうかしら。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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