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2021年5月10日 (月) 21:33時点における最新版
本文
粉飾決算の件で職を失った私は、息子とともに日本から逃げ出し、アラスカの極寒の地を彷徨っていた。
「お腹すいたナリ・・・」
「頑張れ。もうすぐで休憩だ。アザラシでも捕って食おうじゃないか。」
「アザラシなんて当職は食べたくないナリ!当職が求めるのは当職の階級に相応しい高級料理だけナリよ!」
「いい加減にしろ。現実と向き合わなければならん。河野おじいさんの言っていたことを忘れたのか。」
「嫌だ!嫌ナリよ~!」
バタバタと足を動かして喚き散らす。ダチョウの遺伝子の発現か。まったく、みっともない。
「そんだけ元気があるなら大丈夫だ。さあ着いたぞ。」
おかしい、アザラシどころか魚一匹見つからない。原住民に騙されたのだろうか。
「パパ~!お腹すいたナリよ~もう限界ナリ~」
また「幼児化」した。私が構ってやらないといつもこうなのだ。
「困ったね。まあとりあえず休憩しよう。」
小さな穴を見つけたので私たちはそこでしばらく休むことにした。
優~しい世界~の始まりナリ~さよ~ならさよな~ら♪
奥の方で何かやっているようだ。やれやれ。どれだけ手を焼かせたら気が済むのだろう。
「つくる!つくるナリよ!」
「何をつくるんだ。」
「カレーライス、パパ好きだったでしょ?」
ブチチチチブチチュチュチブチ・・・
「ライスはないから氷で我慢してね。見た目はカレー・・・カレーナリよ。」
なんだ。私の気づかないうちに、少しは大人になったじゃないか。
その精一杯の優しさに、私は目から涙が止まらなかった。
リンク
- 初出 - デリュケー やさしさ(魚拓)
恒心文庫