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== 1………はじめに == | == 1………はじめに == | ||
本章では、インターネット上の人権侵害に対して利用される「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)(以下、「プロ責法」と言う)に基づく手続きについての現行法、改正法の概観を示すとともに、インターネット上の人権侵害に関する近年のいくつかの裁判例を紹介し、そこでの判断構造を分析し、現在存在する人権侵害に対し、現行法の有効範囲を示すとともに、そこでの限界を踏まえて、今後どのような立法が検討されるべきかについてその視点を示していきたい。 | |||
== 2………権利侵害への法的対応 ——発信者情報開示手続きを中心に == | == 2………権利侵害への法的対応 ——発信者情報開示手続きを中心に == | ||
=== | === 1 現行法としてのプロバイダ責任制限法 === | ||
現在、インターネット上の人権侵害に対して、発信者情報開示の点で、どのように対応していくかを簡単に示す。インターネット上で、権利侵害情報[?]があった場合、権利侵害情報の発信者は通常、匿名であることが多いため、権利者情報の公表によって、発生した精神的侵害の回復を求めるための損害賠償請求を行うために、発信者を特定することが求められる。<br> | 現在、インターネット上の人権侵害に対して、発信者情報開示の点で、どのように対応していくかを簡単に示す。インターネット上で、権利侵害情報[?]があった場合、権利侵害情報の発信者は通常、匿名であることが多いため、権利者情報の公表によって、発生した精神的侵害の回復を求めるための損害賠償請求を行うために、発信者を特定することが求められる。<br> | ||
この手続きで利用される法律が、プロ責法であり、それを受けて制定されている総務省令である「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」(以下、「プロ責法」と言う)である。<br> | この手続きで利用される法律が、プロ責法であり、それを受けて制定されている総務省令である「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」(以下、「プロ責法」と言う)である。<br> | ||
プロ責法は、特定電気通信役務提供者(以下、「プロバイダと言う)がインターネット関連サービスの提供時の管理行為として、権利侵害情報の削除や、権利侵害情報の発信者情報の開示に関して発生するプロパイダの法的責任について、一定の要件下での免責と、権利侵害情報の被害者に対して発信者情報開示請求権を認めた法律である。<br> | |||
発信者は、インターネット接続サービスを利用し、インターネットにアクセスし、自己が管理する端末から、権利侵害情報を発出し、インターネット上でコンテンサービスを提供しているサーバに権利侵害情報を記録する。インターネット接続サービスを利用した場合、フリーWifiを利用していなければ、インターネット接続サービス提供事業者(Softbankなど)(以下、「経由プロバイダ」と言う)は、権利侵害情報の発信者に関する契約者情報を保有している。被害者とすれば、発信者の法的責任を追求するためには、かかる契約者情報を取得する必要があるが、直接的に契約者情報を取得する方法は、発信者が自分でサーバを立てて、権利侵害情報を発信している以外は、コンテンツサービス提供事業者(以下、「コンテンツプロバイダ」と言う)に対して、発信者情報の開示を求め、IPアドレス、権利侵害情報の発信日時の提供を受け、判明したIPアドレスについて管理している経由プロバイダに発信者情報開示請求をするという二段階の手続きを経るしかない。<br> | |||
この二段階の手続きは、総務省の指導のもと、基本的に裁判手続きを経る必要があったため、被害者としては、2度の裁判手続きを行う必要があった。海外のコンテンツプロバイダ(Twitter、Googleなど)に対して、法的手続きを行う必要がある場合、日本国内のコンテンツプロバイダに対して開示請求を行うよりも、求める発信者情報の内容(携帯電話番号、メールアドレス)によって、一段階で手続きを行うこともできたが、この場合、裁判上保全手続きを利用するよりも時間のかかる海外送達手続きを利用せざるを得ず、判決まで1年以上かかることもあった。<br> | |||
海外のコンテンツプロバイダにおいては、ログイン時のIPアドレスしか保有してないとする事業者(Twitter、Googleなど)もおり、ログイン時IPアドレスが、法令上、発信者情報開示の対象とされるIPアドレスなのかといった不毛な争いも裁判上繰り広げられ、被害者を置き去りにした議論を強いられることもあった。<br> | 海外のコンテンツプロバイダにおいては、ログイン時のIPアドレスしか保有してないとする事業者(Twitter、Googleなど)もおり、ログイン時IPアドレスが、法令上、発信者情報開示の対象とされるIPアドレスなのかといった不毛な争いも裁判上繰り広げられ、被害者を置き去りにした議論を強いられることもあった。<br> | ||
この二段階の裁判手続きの利用にあたっては、証拠に基づく事実の主張、その事実に対する法の解釈適用といった専門的知識が求められる手続きであるため、弁護士の利用が事実上必要とされるため、被害者としては、のちの損害賠償請求での回収を期待することのできない、弁護士費用がかかっている。そもそも経由プロバイダ、コンテンツプロバイダが、事業により得ている利益についての応分の費用をかけて、権利侵害情報への対応が求められる問題について、実質的に、一方的に被害者に負担がかかる構造がそこに存在していた。大手コンテンツプロバイダについては、法的対応を任意で求めても、定型文でただ返してくるという事故の対応の正当性について疑義を感じさせる対応をしてるのが現状であり、その問題は、いまだ解決できない問題として存在している。 | |||
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== 2 改正法としてのプロバイダ責任制限法 == | |||
同法律は、被害者にとって、大変使い勝手の悪い法律であったことから、2021(令和3)年4月21日改正、4月28日公布され、公布から1年6月以内の施行されることになっている。主たる改正点は、従来の発信者情報開示手続きに加え、非訴手続きとして新たに発信者情報開示手続きを設け、一度申し立てた手続き上で、これまでバラバラで行われていた手続きについて、五月雨式 | 同法律は、被害者にとって、大変使い勝手の悪い法律であったことから、2021(令和3)年4月21日改正、4月28日公布され、公布から1年6月以内の施行されることになっている。主たる改正点は、従来の発信者情報開示手続きに加え、非訴手続きとして新たに発信者情報開示手続きを設け、一度申し立てた手続き上で、これまでバラバラで行われていた手続きについて、五月雨式 | ||
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2022年3月8日 (火) 19:32時点における版
第6章
ネット上の人権侵害に対する裁判の現状
唐澤貴洋………弁護士
1………はじめに
本章では、インターネット上の人権侵害に対して利用される「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)(以下、「プロ責法」と言う)に基づく手続きについての現行法、改正法の概観を示すとともに、インターネット上の人権侵害に関する近年のいくつかの裁判例を紹介し、そこでの判断構造を分析し、現在存在する人権侵害に対し、現行法の有効範囲を示すとともに、そこでの限界を踏まえて、今後どのような立法が検討されるべきかについてその視点を示していきたい。
2………権利侵害への法的対応 ——発信者情報開示手続きを中心に
1 現行法としてのプロバイダ責任制限法
現在、インターネット上の人権侵害に対して、発信者情報開示の点で、どのように対応していくかを簡単に示す。インターネット上で、権利侵害情報[?]があった場合、権利侵害情報の発信者は通常、匿名であることが多いため、権利者情報の公表によって、発生した精神的侵害の回復を求めるための損害賠償請求を行うために、発信者を特定することが求められる。
この手続きで利用される法律が、プロ責法であり、それを受けて制定されている総務省令である「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」(以下、「プロ責法」と言う)である。
プロ責法は、特定電気通信役務提供者(以下、「プロバイダと言う)がインターネット関連サービスの提供時の管理行為として、権利侵害情報の削除や、権利侵害情報の発信者情報の開示に関して発生するプロパイダの法的責任について、一定の要件下での免責と、権利侵害情報の被害者に対して発信者情報開示請求権を認めた法律である。
発信者は、インターネット接続サービスを利用し、インターネットにアクセスし、自己が管理する端末から、権利侵害情報を発出し、インターネット上でコンテンサービスを提供しているサーバに権利侵害情報を記録する。インターネット接続サービスを利用した場合、フリーWifiを利用していなければ、インターネット接続サービス提供事業者(Softbankなど)(以下、「経由プロバイダ」と言う)は、権利侵害情報の発信者に関する契約者情報を保有している。被害者とすれば、発信者の法的責任を追求するためには、かかる契約者情報を取得する必要があるが、直接的に契約者情報を取得する方法は、発信者が自分でサーバを立てて、権利侵害情報を発信している以外は、コンテンツサービス提供事業者(以下、「コンテンツプロバイダ」と言う)に対して、発信者情報の開示を求め、IPアドレス、権利侵害情報の発信日時の提供を受け、判明したIPアドレスについて管理している経由プロバイダに発信者情報開示請求をするという二段階の手続きを経るしかない。
この二段階の手続きは、総務省の指導のもと、基本的に裁判手続きを経る必要があったため、被害者としては、2度の裁判手続きを行う必要があった。海外のコンテンツプロバイダ(Twitter、Googleなど)に対して、法的手続きを行う必要がある場合、日本国内のコンテンツプロバイダに対して開示請求を行うよりも、求める発信者情報の内容(携帯電話番号、メールアドレス)によって、一段階で手続きを行うこともできたが、この場合、裁判上保全手続きを利用するよりも時間のかかる海外送達手続きを利用せざるを得ず、判決まで1年以上かかることもあった。
海外のコンテンツプロバイダにおいては、ログイン時のIPアドレスしか保有してないとする事業者(Twitter、Googleなど)もおり、ログイン時IPアドレスが、法令上、発信者情報開示の対象とされるIPアドレスなのかといった不毛な争いも裁判上繰り広げられ、被害者を置き去りにした議論を強いられることもあった。
この二段階の裁判手続きの利用にあたっては、証拠に基づく事実の主張、その事実に対する法の解釈適用といった専門的知識が求められる手続きであるため、弁護士の利用が事実上必要とされるため、被害者としては、のちの損害賠償請求での回収を期待することのできない、弁護士費用がかかっている。そもそも経由プロバイダ、コンテンツプロバイダが、事業により得ている利益についての応分の費用をかけて、権利侵害情報への対応が求められる問題について、実質的に、一方的に被害者に負担がかかる構造がそこに存在していた。大手コンテンツプロバイダについては、法的対応を任意で求めても、定型文でただ返してくるという事故の対応の正当性について疑義を感じさせる対応をしてるのが現状であり、その問題は、いまだ解決できない問題として存在している。
2 改正法としてのプロバイダ責任制限法
同法律は、被害者にとって、大変使い勝手の悪い法律であったことから、2021(令和3)年4月21日改正、4月28日公布され、公布から1年6月以内の施行されることになっている。主たる改正点は、従来の発信者情報開示手続きに加え、非訴手続きとして新たに発信者情報開示手続きを設け、一度申し立てた手続き上で、これまでバラバラで行われていた手続きについて、五月雨式