「弁護士が受けた100万回の殺害予告 突然訪れる危機を回避する方法/本文」の版間の差分

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== chapter 02|議論レポート ==
== chapter 02|議論レポート ==


 弁護士ドットコムが弁護士500人にアンケートをしたところ、業務で身の危険を感じたことがある弁護士は43.2%。ネット中傷については22.2%に被害経験があり、被害経験はないが懸念はしているとした弁護士も65.0%いた。不当な懲戒請求の被害も21.8%あり、弁護士が「攻撃」を受けることは珍しくない(結果レポートはhttps:/oni.sc/p474359からダウンロードできる)。<br>
 弁護士ドットコムが弁護士500人にアンケートをしたところ、業務で身の危険を感じたことがある弁護士は43.2%。ネット中傷については22.2%に被害経験があり、被害経験はないが懸念はしているとした弁護士も65.0%いた。不当な懲戒請求の被害も21.8%あり、弁護士が「攻撃」を受けることは珍しくない(結果レポートはhttps://onl.sc/p474359からダウンロードできる)。<br>
 基調講演のあとは、司会の青木美佳氏も交え、唐澤氏、北氏と弁護士の「防御」について、参加した弁護士から寄せられた多数の質問にも答えながら、議論を深めた。一部再構成してレポートする(以下、敬称略)。
 基調講演のあとは、司会の青木美佳氏も交え、唐澤氏、北氏と弁護士の「防御」について、参加した弁護士から寄せられた多数の質問にも答えながら、議論を深めた。一部再構成してレポートする(以下、敬称略)。


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=== 3 不当な懲戒請求にどう立ち向かうべきか ===
=== 3 不当な懲戒請求にどう立ち向かうべきか ===
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青木:話題を変えて、懲戒請求についてうかがっていきます。北先生は最近、ツイッターの発言を理由とした懲戒請求を受けたと聞きました。
 
北:はい。2022年の頭ぐらいに。事件の相手方からです。私のツイッターを見ている人は、私が妻のことを「ツマー」と呼んで、話題にしているのを日々見ていると思うんですけど、先日妻が「喪服もののAV(アダルトビデオ)」が云々みたいなことを言っていたので、こんなひどい話を聞かされているとツイートしたんです。そうしたら、「弁護士たるものAVという単語を出すとは何事だ」みたいな懲戒請求が来たんですよ。<br>
 たぶん、交渉である程度有利に働くんじゃないかという意図のもとに懲戒請求をしてるんでしょうね。こういう相手方からの不当な懲戒請求は昔からある類型だと思うんですけど、正直なところ完全に防ぐのは難しいのかなと。<br>
 懲戒請求って権利なので、するなとは言えないです。ただ、コストも時間もかかるんですけど、不当な懲戒請求については、1個1個ちゃんと損害賠償請求が来るんだよということで対応していく必要があると思うんですね。<br>
 今まで基本的に弁護士だったら「まあありうる」ということで、前提として気にするなみたいなところでやってきたと思うんですよ。懲戒請求されて一人前みたいな。でも、全然知らない人から来る、もしくは本来の目的ではない使い方をしてくる場合には、弁護士会や互助団体なりで、ある程度対応していく必要があるだろうとは考えていますね。
 
青木:されてしまったときに、対応のコツはあるんですか?
 
北:とにかく周りに言うことですね。私、大量懲戒請求のとき、同期のクラスメイトや先輩方のグループとかに、こんなに来たんだけどとすぐ投げました。仮に代理人を立てないとしても、一人で抱えないことだと思います。第三者的な立場で見たら、そんなの懲戒されないよというのでも、当事者になるといろいろ考えちゃうと思うんですよ。
 
青木:今日のポイントのひとつはそこですね。やっぱり相談すると。
 
北:知り合いベースで良いので。ただ、代理人なり、弁護団に入ってもらうというのであれば、メンバーはある程度考えたほうが良いだろうなとは思います。
 
青木:そこ、具体的に教えてもらっても良いですか?
 
北:何を目的とするかによるんですが、今回の不当懲戒の弁護団としては、相手方がとにかく多かったので、機械化・自動化ができないといけなかった。あと、意思決定が遅いといつまでも進まない。この人の判断を仰がないと進めないという弁護団にすると、その人の反応がないだけで半日止まっちゃうんですね。<br>
 だから、今回の弁護団にトップはいないんですよ。だいたい半分の賛同がとれたら進むんですね。だから、重鎮の先生方って相談相手としては勘所も知っているし、非常に重要だと思うんですが、弁護団には入っていただかないというのが私たちの考えでした。
 
青木:「自動化」というのはどういうことなんですか?
 
北:たとえば、判決に自動的にマスキングをかけるとか、名簿を自動抽出するとか。懲戒に限らず、弁護団を組むときはシステム的なスキルをお持ちのかたや、マスコミ対応ができるかたを入れるのは、特に社会に訴えていくみたいなところがある場合は必要かなと思います。<br>
 あとは近い年代で固めて、理論が強い人はもちろん必要。学者の先生とコネクションがある人も。意見書を書いてもらうことが結構あるので。今回の弁護団は法廷に行くだけでも人数がいりましたけど、本当はあんまり増やさないのが重要だと思いますね。意思決定が遅くなるので。<br>
 自分が全部身につけるのは現実的ではないので、必要に応じて集まってもらえる関係性を普段からつくっておくのは、業務のスキルとしてあっても良いのかなと。
 
==== 濫用的懲戒請求へのバックアップ体制を ====
 
青木:唐澤先生も懲戒請求をされたご経験があるそうですが。
 
唐澤:そうですね。最近なんですけど、本当に何年も前のネット上の発言を、弁護士の品位にもとるという形で懲戒請求されて。これには経緯があって、懲戒請求をした人が実は「指示する内容で書け」とネットで脅迫を受けていたみたいで。請求書の余白に「これは自分の本意じゃありません」と走り書きがあったんですね。<br>
 ただ、こんな風に書いてあっても、普通の懲戒請求としては受理されまして、答弁書を出しました。最終的に請求は認められなかったんですけど、「本意ではない」という部分について本人への確認はなかった。ここは何らかの形で確認しないといけないんだろうなと思います。<br>
 今インターネットは、扇動の時代が来たなっていうところがあって、ある種の操作ができたり、そこに権力が発生したりする空間になっています。北先生の「余命」の事件のように、妙なものに乗っかっちゃって、懲戒請求をするような事例って今後もありうると思っています。
 
北:懲戒請求の制度って、我々のことがあってから段階的に変わっているとは思うんですが、やっぱり融通が利かない部分があって。たとえば、懲戒請求はあくまで端緒なので、本人が取り下げても止まらないんですよね。私のときも記者会見のあと、何十人かは和解をして、懲戒請求を取り下げますって言ってきたんです。でも、弁護士会に届いてしまうと、懲戒手続きが止まらない。<br>
 今は内容が一見して不当なら弁護士会が切ることもあるようですが、これはこれで恣意的な運用の恐れは残る。基準が明確ではないので。どちらかというと私としては、入り口で本人確認と手数料、あとは濫用的懲戒請求へのバックアップ体制をしっかりしたほうが良いのかなと思っています。
 
青木:唐澤先生の事案では、脅迫した人は分かったんですか?
 
唐澤:ネットで匿名の脅迫行為がおこなわれているので、分からないですよね。入り口が広く、懲戒請求しやすいので、不当に利用しようという人がいるのもまた事実だと思います。
 
==== 懲戒請求者の書面に出てきた謎の陰謀論 ====
 
唐澤:北先生にお聞きしたいんですが、陰謀論に支配されているような人たちも現実にいて、今後そういう人たちが社会的問題に取り組む弁護士に矛先を向けてくる可能性ってあると思いますか?
 
北:正直、ゼロじゃないと思いますね。私たちのケースだと、期日で出てくる書面で、「北朝鮮の核ミサイル」という言葉が乱舞していたり、佐々木先生にいたっては「日本国憲法の制定に関与した疑いがある」って本当に書いてあるんですよ。<br>
 彼らは懲戒請求することは正義にかなうと思ってるんですよね。彼らなりの善意だったり、正義だったりでやっている。ほかは普通なんですけど、陰謀論の部分だけ非常にとがっている。<br>
 今回、全員が損害賠償されたので、弁護士にまたやるのはもしかしたら下火になるかもしれませんが、矛先が違うところに向くのはありうる話だと思っています。
 
青木:お時間的にこれで最後になると思いますが、「懲戒請求に対応するための有益な書籍があればご紹介ください」という質問が来ています。
 
北:これは難しいんですけど、たぶん今のところないんですよ。懲戒事例集はあります。でも、懲戒にならなかった事例集って綱紀委員会にはあるらしいのですが、一般販売されているのは知りません。それに反論書が載ってるわけじゃないんですよね。<br>
 だから懲戒対応の書籍みたいなものに需要はあると思いますが、懲戒にならなかった事例をどうやって収集するかみたいな難しさがあるのかなと思います。
 
青木:ぜひ、次回の北先生の書籍で(笑)。それではお時間ですので、最後に一言ずつお願いします。
 
唐澤:お聞きいただいてる弁護士の先生がたに、こういった問題があるということを認識いただいて、弁護士同士でですね、何とかその社会的問題に取り組めるような体制ができたら良いなと思っています。
 
北:唐澤先生がおっしゃった通り、業界内で助け合わないと。なかなか外に助けを求めるのは難しいでしょうし。自分が被害にあったときは、遠慮なく助けを求めるべきだと思いますし、逆に周りから助けを求められたときは親身に対応してあげてほしいなと思っています。


[[カテゴリ:唐澤貴洋に関する著作・記事]]
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