「インフレーシヨンと物價對策」の版間の差分
*>韓揚げ弁当 編集の要約なし |
>Fet-Fe 細 (→全文) |
||
(6人の利用者による、間の39版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
'''インフレーシヨンと物價對策'''(いんふれーしょんとぶっかたいさく)は、明治大学専門部女子部商科二年の[[河野喜代|柳下喜代]](尊師の母方祖母)が、『明治大学女子部創立十周年記念論文集 : 皇紀二千六百年』に寄稿した論文である。 | |||
== 全文 == | |||
インフレーシヨンと物價對策<br> | |||
商科二年 柳下きよ | |||
目次󠄁<br> | |||
序<br> | |||
一、インフレーシヨンの意義<br> | |||
數量說による賃幣󠄁{{原文ママ|貨幣󠄁}}價値の決定<br> | |||
貨幣󠄁價値決定に關する諸󠄀學說<br> | |||
貨幣󠄁價値の表現<br> | |||
インフレーシヨンの意義<br> | |||
二、インフレーシヨンの顯現形態<br> | |||
貨幣󠄁インフレーシヨン<br> | |||
信用インフレーシヨン<br> | |||
現今に於ける我が國{{原文ママ|「の」の脱字}}戰時經濟とインフレーシヨン<br> | |||
三、インフレーシヨンの影響󠄃<br> | |||
四、インフレーシヨンと物價對策{{原文ママ|我國に於ける物價對策}} | |||
=== 序 === | |||
現今の我國民經濟生活にとつて、インフレーシヨンの問題が如何に重要󠄁であるかは、此處に云ふ迄もない事である。 | |||
インフレーシヨンの進󠄁行は、我が國民經濟に於ける生產諸󠄀力に影響󠄂し、戰時體制の基礎を破壞するのであるから、我々は凡る努力と犧牲とによりインフレーシヨンの防止に當らなければならない。<br> | |||
然るに、戰爭と貨幣󠄁價値維持とは常に相容れない問題で、從來の例にも見る如く、其の程󠄁度の差こそあれ、戰爭には必ずインフレーシヨンはつきものである。 | |||
而して近󠄁代的戰勝󠄁の意味は、單に局部的領土の占領を指すのではなく、敵國の國家機󠄁構󠄁を破壞して、國家としての生存を不可能ならしめるにあるから、國家機󠄁能の最も根本的なる經濟體制は最も强力に組立てられ、其の機󠄁能は、保全󠄁されねばならないのである。 | |||
而して、經濟機󠄁構󠄁の根本的な基礎をなすものは、貨幣󠄁價値である。 | |||
故に貨幣󠄁價値の下落によつて有󠄁らゆる經濟機󠄁構󠄁が破綻を生ずれば、最早や國家としての存續󠄁は不可能となり、戰果は旣に明󠄁らかな所󠄁である。 | |||
如斯貨幣󠄁價値の維持、換言すればインフレーシヨンの防止は、戰時經濟政䇿の重要󠄁なる課題であり、又󠄂凡る戰時經濟政䇿がこの一點に向つて集中されてゐる事は、此處に論ずる迄もない事である。<br> | |||
而して、私はこの小論に於て、インフレーシヨンの意義を明󠄁らかにし、次󠄁にインフレーシヨンが如何なる形體に於て顯現するかを把握し、次󠄁でインフレーシヨンの影響󠄂を考察して、最後にインフレーシヨンの對䇿を究明󠄁すん{{原文ママ|せん?}}と意圖󠄃するものである。 | |||
=== 一、インフレーシヨンの意義 === | |||
==== 數量說による貨幣󠄁價値の決定 ==== | |||
インフレーシヨンと云ふ言葉は、極めて一般的に使󠄁用されてゐるにも拘らず、其の內容の規定は極めて區󠄁々である。 | |||
例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg{{原文ママ|Aufblähung}} に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう{{原文ママ|あらう}}。…………」⑴ とせられ、荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴{{原文ママ|騰󠄁貴}}を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。<br> | |||
斯くの如くインフレーシヨンの規定は區󠄁々であるが、其れが貨幣󠄁價値の下落に關する事であり、其の原因を貨幣󠄁數量の增加に求める傾向にあり、然も量と共に其の流通󠄁速󠄁度にも變化ある事及び結果的にも必ず物價騰󠄁貴ある事が一般に認󠄁識せられてゐる所󠄁である。 | |||
かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。<br> | |||
而して、貨幣󠄁價値決定に當つては、根本原因として、アーヴイング・フイツシヤー氏の數量說によるを今日の通󠄁說にして同時に又󠄂、適󠄁當なるも{{原文ママ|もの?}}と考へるのであるが、フイツシヤー氏の數量說に更󠄁に修正要󠄁素を加へられた春日井先生は次󠄁の如く說かれてゐる。<br> | |||
「一財貨の交󠄁換價値は其の財貨の効用性と稀少性によつて生じ、其の高は同樣にして生ぜる他の財貨の價値との比例に外ならない。 | |||
然らば貨幣󠄁の交󠄁換價値も同樣に貨幣󠄁對一般財貨の間に於ける効用及稀少性の比率󠄁關係によると解すべきである。 | |||
之を他面より考察するに貨幣󠄁は本來流通󠄁財貨と對立關係に立ち、全󠄁流通󠄁財貨量と全󠄁貨幣󠄁流通󠄁量とは凡て等價の關係に在る。 | |||
然るに貨幣󠄁は價値流通󠄁の要󠄁具󠄁にして交󠄁換以外の一方的價値流通󠄁にも使󠄁用さるゝを以て、流通󠄁する財貨と對立關係にあるのは、之等に用ひられたる貨幣󠄁額を除外したる部分󠄁である。 | |||
更󠄁に今日の社󠄁會にては小切手等の信用要󠄁具󠄁が交󠄁換等に於ける財貨と對立し、且つ屢々物々交󠄁換も行はれ、流通󠄁を本性とする商品以外の財產たる資󠄁本も貨幣󠄁と交󠄁換されて對立關係となる。 | |||
かくして除外例を附したる貨幣󠄁對財貨の關係は、平󠄁等對立關係にして一定の時、所󠄁に於ける前󠄁者󠄁の全󠄁額と後者󠄁の全󠄁額とは全󠄁く等價となるべきである。 | |||
然るに流通󠄁財貨の一定の時に於ける量は事實上判󠄁定不可能である。 | |||
故に一定時日間を通󠄁じてなさるゝ財貨の流通󠄁量を選󠄁び、之を同一時日間に全󠄁貨幣󠄁の流通󠄁せる回數を貨幣󠄁に乘じたるものと對立せしむべき事となる。」⑶<br> | |||
となされ、フイワシヤー{{原文ママ|フイツシヤー}}の所󠄁謂交󠄁換方程󠄁式<span style="font-family: serif;">𝑇𝑃=𝑀𝑉+𝑀<span style="font-style: italic;">′</span>𝑉<span style="font-style: italic;">′</span></span>を修正されて、全󠄁貨幣󠄁活働額よりは一方的價値流通󠄁として活働せる量を除かれ、全󠄁流通󠄁財貨よりは、相殺取引、物々交󠄁換高を除外され、資󠄁本財流通󠄁高除外を附加されて次󠄁の如くなされたのである。 | |||
<div style="font-family: serif;"> | |||
𝑃=<span style="display: inline-block; vertical-align: middle; text-align: center;"><span style="display: block; border-bottom: 1px solid #333;"> 𝑀𝑉+𝑀<span style="font-style: italic;">′</span>𝑉<span style="font-style: italic;">′</span>−𝑚 </span><span style=""> 𝑇+𝐶−2𝐵 </span></span> | |||
∴ <span style="display: inline-block; vertical-align: middle; text-align: center;"><span style="display: block; border-bottom: 1px solid #333;">1</span><span style="">𝑃</span></span>=<span style="display: inline-block; vertical-align: middle; text-align: center;"><span style="display: block; border-bottom: 1px solid #333;"> 𝑇+𝐶−2𝐵 </span><span style=""> 𝑀𝑉+𝑀<span style="font-style: italic;">′</span>𝑉<span style="font-style: italic;">′</span>−𝑚 </span></span><br> | |||
𝑃=一般物價 𝑇<span style="display: inline-block; transform: rotate(-90deg);">=</span>{{原文ママ|活字の向きのミス}}商品流通󠄁高<br> | |||
𝐵=物々交󠄁換及相殺取引高 𝑀=貨幣󠄁高<br> | |||
𝑉=貨幣󠄁流通󠄁速󠄁度 𝑀<span style="font-style: italic;">′</span>=信用(貨幣󠄁代用物の高)<br> | |||
𝑉<span style="font-style: italic;">′</span>=信用の流通󠄁速󠄁度 𝐶=資󠄁本財流通󠄁高<br> | |||
𝑚=一方的支拂に用ひられたる貨幣󠄁高<span style="display: inline-block; transform: rotate(-90deg);">⑷</span>{{原文ママ|活字の向きのミス?}} <span style="display: inline-block; vertical-align: middle; text-align: center;"><span style="display: block; border-bottom: 1px solid #333;">1</span><span style="">𝑃</span></span>=貨<span style="display: inline-block; transform: rotate(-90deg);">幣󠄁</span>{{原文ママ|活字の向きのミス}}價値 | |||
</div> | |||
貨幣󠄁價値は斯の如く除外例を附したる財貨對貨幣󠄁の對立關係の比率󠄁に求むべきであつて私も亦、春日井敎授󠄁の說に追󠄁從するものである。<br> | |||
⑴ 橋爪明󠄁男著󠄁「貨幣󠄁理論」<ref>[https://doi.org/10.11501/1453167 橋爪明男 著『貨幣理論』, 日本評論社, 1928. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1453167 (参照 2023-02-20)]</ref><br> | |||
⑵ 荒木光太郞著󠄁「貨幣󠄁槪󠄁論」<ref>[https://doi.org/10.11501/2389593 荒木光太郎 著『貨幣概論』, 有斐閣, 1936. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2389593 (参照 2023-02-20)]</ref><br> | |||
⑶ 春日井先生著󠄁「貨幣󠄁及金融原理」<ref>[https://doi.org/10.11501/1277523 春日井薫 著『貨幣及金融原理』, 文雅堂, 昭11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1277523 (参照 2023-02-20)]</ref>九九頁參照。<br> | |||
⑷ 春日井先生著󠄁 前󠄁揭書一〇四頁參照。 | |||
==== 貨幣󠄁價値決定に對する諸󠄀學說(數量說反對說としての) ==== | |||
然るに貨幣󠄁數量說に對しては種々なる反對說がある。今、其の二、三を次󠄁に擧げて見ると、<br> | |||
品 質 說<br> | |||
{{原文ママ|字下げなし}}この說によれば、貨幣󠄁の流通󠄁に對して抱󠄁く世人の信任の變化、換言すれば貨幣󠄁の品質に對する判󠄁斷が貨幣󠄁價値に極めて重大なる影響󠄂を及ぼす、と云ふのである。 | |||
而して、貨幣󠄁の流通󠄁に對する信任の動搖は、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度を增大させて商品の側に於ては賣り惜み、と云ふ現𧰼が現はれ、この兩者󠄁が相俟つて貨幣󠄁の價値を異常に低下させるから、貨幣󠄁價値決定上、その數量のみでなく、信任の要󠄁素卽ち品質も亦重要󠄁なる役割󠄀をなすと云ふのである。<br> | |||
乍然、この說に云ふ商品販賣者󠄁が賣惜しむのは、將來貨幣󠄁が增發されて、流通󠄁貨幣󠄁量が增加し、その結果貨幣󠄁價値が低下するだらうと云ふ豫測だからであり、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度の增大が貨幣󠄁價値に影響󠄃するのは、それが流通󠄁貨幣󠄁積數を增加させるからであり、この說は結局數量說の否定ではなくして、數量說を前󠄁提として始めて說明󠄁可能なのである{{原文ママ|句点なし}}<br> | |||
商 品 說<br> | |||
この說によれば、貨幣󠄁の價値はそれを構󠄁成󠄁する材料の商品價値によつて決定されるとなすのである。<br> | |||
乍然、貨幣󠄁は商品に非ずして其の價値は、素材の價値とは全󠄁く獨立なる經濟手段である。 | |||
故に地金の價値と貨幣󠄁の價値との關係について商品說の唱へる所󠄁は正鵠を失するものである。 | |||
卽ち鑄貨等の如く商品に還󠄁元し得る貨幣󠄁については一應適󠄁用するものであるが、實際價値以上の大なる通󠄁用力を有󠄁する補助貨幣󠄁に於ては適󠄁合し難󠄀いものであり、更󠄁に不換紙幣󠄁の如く商品還󠄁元の無意味なる貨幣󠄁については全󠄁く適󠄁合し得ぬものである。<br> | |||
主 觀 價 値 說<br> | |||
貨幣󠄁が使󠄁用價値を有󠄁せぬ點より貨幣󠄁價値を交󠄁換價値として說明󠄁するのであるが然し、一方に於て價格に對する貨幣󠄁價値の獨立性を認󠄁めて、貨幣󠄁の交󠄁換價値については第一次󠄁的交󠄁換價値と第二次󠄁的の交󠄁換價値とを認󠄁めるのである。 | |||
而して前󠄁者󠄁を內部交󠄁換價値とし、後者󠄁を外部交󠄁換價値として、この內部交󠄁換價値が價値の變動の原因をなす所󠄁の貨幣󠄁の價値であるとするのである。 | |||
卽ち貨幣󠄁の價値は、貨幣󠄁に對する主觀的評󠄁價を通󠄁じて決定されると見る所󠄁の學說である。<br> | |||
この說も結局貨幣󠄁品質說と同樣に數量說を基本としてのみ說明󠄁可能であり數量說に對立する學說ではない。<br> | |||
職 分󠄁 說<br> | |||
職分󠄁說又󠄂は需給說は、貨幣󠄁に對する需用{{原文ママ|需要󠄁}}供給が貨幣󠄁價値を決定するとなし、而して貨幣󠄁に對する需要󠄁とは、商品勞務を提供して貨幣󠄁を得んとする慾求である。 | |||
供給とは、貨幣󠄁によつて商品、勞力を得んとする慾求である。 | |||
故に前󠄁の要󠄁求が强ければ物價は低落し、後の要󠄁求が强ければ物價は騰󠄁貴するとなすのである。<br> | |||
固より貨幣󠄁の價値を現實に決定するものは需要󠄁、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣󠄁數量說に云ふ所󠄁の他の事情󠄁にして同一なれば供給數量によるとの說に外ならぬのである。<br> | |||
斯の如く、從來貨幣󠄁數量說に對しては幾󠄁多の論あるに不拘、數量說が依然として貨幣󠄁經濟社󠄁會に於ける貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁する最基本的な理論たる所󠄁以は、數量說を他にしては貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁することは不可能であり、又󠄂數量說に對立する所󠄁の第二の貨幣󠄁理論の無い爲である。 | |||
==== 貨幣󠄁價値の表現 ==== | |||
然らば貨幣󠄁價値は何によつて表現されるかに就いては、一般物價指數の逆󠄁數によつて貨幣󠄁價値の正當なる表現と見るものである。<br> | |||
卽ち貨幣󠄁の價値を其の交󠄁換價値と解釋する時は、この交󠄁換價値卽ち購󠄂賣力は、諸󠄀種の財貨を取得し、又󠄂は勞務を享受する場合に實現し、交󠄁換比例に於て數字的なる表現を見るものである。 | |||
故に、例へば米一俵十八圓なりと云ふのは、米と貨幣󠄁との交󠄁換比例である。 | |||
この場合、貨幣󠄁十八圓の交󠄁換價値は米一俵で表現せられ、又󠄂逆󠄁に、米の價値は米と對立して交󠄁換される貨幣󠄁の量、卽ち十八圓なる價格に表現されるべきものである。 | |||
卽ち價格なるものは、財貨にのみ存するのではなく、貨幣󠄁の方面から見れば同じく其の交󠄁換價値を示すものである。 | |||
故にこの場合の貨幣󠄁の價値は、其一定量が交󠄁換により支󠄂配する米の量に依つて表現されると共に、一定量の米に對して提供される貨幣󠄁の量、卽ち米の價格の逆󠄁數に依つても表現される事になる。<br> | |||
貨幣󠄁と交󠄁換される價値物の種類󠄀は極めて多き故に、その財貨及び勞務の諸󠄀價格總合平󠄁均位を求めた所󠄁謂 一般物價指數の逆󠄁數によつて貨幣󠄁價値を表現するとなすのである。<br> | |||
然るに職能價値說の論者󠄁は諸󠄀物價の平󠄁均的中心的な變化其のものを否定し、引いては諸󠄀物價の中心的な地位と規定された物價水準や一般貨幣󠄁價値の思想を無用なりとなすものである。 | |||
通󠄁貨の事情󠄁によつて諸󠄀商品價格の影響󠄃されることは是認󠄁するが、この關係は貨幣󠄁と個々の商品價格に直󠄁接なものであり、平󠄁均的な物價水準と云ふ樣な觀念を通󠄁しての關係ではないと云{{原文ママ|云ふ?}}のである。<br> | |||
乍然、貨幣󠄁の購󠄂買力が物價水準によつて表現されると云ふのは、貨幣󠄁の購󠄂買力其のものゝ性質から見て固よりさうならなければならぬのであつて、決して現實的な諸󠄀物價の變化に平󠄁均的中心的な變動があるといふのではない。 | |||
然るにこの論者󠄁は、現實的な諸󠄀物價の動きにかゝる平󠄁均的中心的な動きがないといふので物價水準の思想から、貨幣󠄁の一般的購󠄂買力の思想までを無用のものと爲すのである。 | |||
==== インフレーシヨンの意󠄁義 ==== | |||
以上の如く貨幣󠄁價値の決定並にその表現について明󠄁らかとなつたから、貨幣󠄁價値の下落であり、物價騰󠄁貴であると前󠄁提する所󠄁のインフレーシヨンの意義も自から解せられる所󠄁である。<br> | |||
卽ちインフレーシヨンとは、通󠄁貨量の增大によつて通󠄁貨と生產取引される物貨との釣合ひが破壞せられ、通󠄁貨の價値の低落した狀態である、と規定し得るであらう。 | |||
=== 二、インフレーシヨンの顯現形態 === | |||
インフレーシヨンは、斯くの如く、商品流通󠄁量に比して流通󠄁する通󠄁貨量の增大に起󠄁因する所󠄁の貨幣󠄁價値の低落した狀態である事が明󠄁らかとなつたのであるが、然らばインフレーシヨンは如何に顯現し發展するか。 | |||
その顯現形態を次󠄁に述󠄁べる事にする。<br> | |||
今日の如き信用經濟の發達󠄁せる社󠄁會に於ては、一槪󠄁に通󠄁貨と云つても、通󠄁貨なるものは、現金通󠄁貨のみならず、その代用物として信用通󠄁貨(預金貨幣󠄁)の存する事は先の方程󠄁式によつても明󠄁らかな所󠄁であらう。<br> | |||
而して一般に前󠄁者󠄁に於けるインフレーシヨンを貨幣󠄁インフレーシヨンと云ひ、後者󠄁に於けるを信用インフレーシヨンと稱󠄁へる。 | |||
今之等の樣相を示せば次󠄁の如くである。 | |||
==== 貨幣󠄁インフレーシヨン ==== | |||
貨幣󠄁の形態は、大體鑄貨、紙幣󠄁の二種である。 | |||
故にインフレーシヨンも亦、之等の貨幣󠄁の增加となつて現はれるのであるが先づ、鑄貨について見れば、今日に於ては、鑄貨そのものが貨幣󠄁形態の間に於て最も微々たる役割󠄀を爲してゐるのであるが、其の增加は、貨幣󠄁の購󠄂買力低下と、一方貨幣󠄁製造󠄁費の騰󠄁貴を惹起󠄁して、逐󠄁{{原文ママ|遂󠄂?}}には、貨幣󠄁の通󠄁用價値と、その製造󠄁費との交叉する點まで達󠄁し、通󠄁貨增發者󠄁に何等の利益󠄁をも齎さない事になるから、鑄貨のインフレーシヨンは極めて稀であり、又󠄂發生してもその程󠄁度は比較󠄁的微弱󠄁である。<br> | |||
次󠄁に紙幣󠄁によるイソフレーシヨソ{{原文ママ|インフレーシヨン}}であるが、紙幣󠄁には兌換紙幣󠄁及び、不換紙幣󠄁があり、發行者󠄁には各政府と、銀行とがある。 | |||
先づ兌換紙幣󠄁の膨脹は其の兌換準備制度と密接な關係を有󠄁するのであるが之を要󠄁するに、兌換紙幣󠄁にあつては、その增發は、主として凖備金屬{{原文ママ|準備金屬}}、例へば金の增加に左右される。而して諸󠄀國が金本位制度を採󠄁用してゐる場合には、甲國に生じた金の增加も甲國にのみ停滯せず、物價騰󠄁貴、輸󠄁入超過󠄁、殘金決濟と云ふ順序によつて金の流出を見てインフレーシヨンの程󠄁度は著󠄁るしく緩󠄁和される事になるのである。<br> | |||
これに反し、不換紙幣󠄁に於ては原則として、その增發を制限すべき何物も存しないのである。 | |||
印刷設備さへあれば極めて迅󠄁速󠄁に、又󠄂殆んど無制限に製造󠄁する事が出來るのであるからそれは、不換紙幣󠄁の購󠄂買力が、製造󠄁費用を償ひうる迄、換言すれば不換紙幣󠄁が全󠄁然購󠄂買力を失つて終󠄁ふまで持續󠄁される可能性がある。 | |||
故にインフレーシヨンの危機󠄁はこの不換紙幣󠄁にこそ存する。 | |||
據て以下インフレーシヨンの對𧰼としての貨幣󠄁は專ら不換紙幣󠄁によるものとする。<br> | |||
而して不換紙幣󠄁の增發は、財政的の支󠄂出の增加に伴󠄁ひ巨󠄁額の紙幣󠄁を發行し、或は公󠄁債を發行して之を中央銀行に引受けさせる等の場合に見るのである。 | |||
從つてそれは中央銀行に於ける政府預金の增加、その撒布による民間預金の增加と云ふ事になり、之が銀行貸出の增加に道󠄁を開いて信用インフレーシヨンにまで進󠄁むのである。 | |||
==== 信用インフレーシヨン ==== | |||
次󠄁に法律上の通󠄁貨ではないが、通󠄁貨と同じ働きをする通󠄁貨をも考へなくてはならない。 | |||
それは預金貨幣󠄁である。 | |||
預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、產業部門の要󠄁求に應じて銀行が基金を供給する事によつて起󠄁るものであつて、それは專ら銀行當座預金增加と云ふ形態をとつて顯はれる。 | |||
而してこの預金貨幣󠄁は、銀行が顧󠄁客に貸付割󠄀引を行ひ、その手取金を現金で與へずして顧󠄁客の當座勘定に記入し、これに對して小切手を振出させる方法によつて創造󠄁される所󠄁の銀行貸出による預金の創設である。 | |||
而して之は何れの銀行も一般に行ひ得る所󠄁であるが故に、この預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、銀行の意志如何によつて起󠄁り得る。 | |||
これ等の預金は其の性質上何時たりとも引出さるべきものであるから、經濟上に與へる影響󠄃に於て他の通󠄁貨と異る所󠄁はない。<br> | |||
以上の如くインフレーシヨンの形態は之を貨幣󠄁インフレーシヨン及び信用インフレーシヨンの二つの見地に區󠄁別する事が出來るのであるが、この二つのインフレーシヨンは、完全󠄁に一致するものではないが、然し大體に於て重り合ふ傾向を有󠄁するものである。 | |||
==== 現今に於ける我が國の戰時經濟とインフレーシヨン ==== | |||
今述󠄁べた如くインフレーシヨンは貨幣󠄁(殊に不換紙幣󠄁)及び銀行預金增加の形態に於て發生するのであるが、しからば我が國の現今戰時經濟下に於ては、インフレーシヨンは何に起󠄁因し、又󠄂如何に發展してゐるか、を見れば次󠄁の如くである。<br> | |||
卽ち最近󠄁の我が國に於けるインフレーシヨンの原因は、それが日支󠄂事變に於ける戰爭需要󠄁の爲の財政膨脹である事は一般周󠄀知の所󠄁である。 | |||
常に戰時體制と戰費調󠄁達󠄁の爲の財政膨脹とは不可分󠄁なる問題であつて、戰時財政の膨脹につれて物價は騰󠄁貴する。 | |||
物價が騰󠄁貴すれば、戰爭の爲の需要󠄁を抑制する事は出來ないから、當然政府財政は物價が騰󠄁貴するだけ膨脹し、その膨脹によつて物價は一層󠄁の騰󠄁貴を助長する、と云ふ關係にあるのである。 | |||
而して政府の戰爭の爲の需要󠄁は絕對であり、この絕對の需要󠄁が急󠄁激に且つ多量に起󠄁る所󠄁に、戰時經濟の特徵󠄁が存してゐるのである。<br> | |||
斯かる財政膨脹の爲に政府の撒布する資󠄁金が急󠄁增するのは當然であつて、若し之が吸收の爲に適󠄁當な對䇿が講󠄁ぜられないならば、通󠄁貨の流通󠄁高の增大は計り得べくもないのである。 | |||
その結果物資󠄁は高騰󠄁を重ねてインフレーシヨンの本格化を惹起󠄁する事は言を俟たぬ所󠄁である。<br> | |||
一方物資󠄁側に之を見るならば、以上の如く戰時財政が增大した結果、軍需關係の生產力及び物資󠄁の不足が顯著󠄁となつて來たばかりでなく、平󠄁和關係の生產力の擴大は抑制され、又󠄂同時にこの種の商品の輸󠄁入の制限を强化せねばならぬ狀態に在るのであつて、財政支󠄂出の激增に比して全󠄁般的に生產力及び物資󠄁は不足となりつゝある。 | |||
亦斯かる需要󠄁の不均衡を目途󠄁とした買占、賣惜等の如き見越需要󠄁が右の傾向を一層󠄁助成󠄁するのである。 | |||
{| border="1" rules="none" style="float: left; margin: 0px 30px 0px 20px;" | |||
|+'''日銀券󠄁發行高'''(單位干圓{{原文ママ|千圓}}) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 年月󠄁末 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 發行高 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十一、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一、四二三、三二五 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十二、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一、七〇八、六五七 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十三、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 二、〇九四、九七六 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十四、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 二、六三三、八六二 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十五、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 三、六〇四、七〇二 | |||
|} | |||
事變以來我が國のインフレーシヨンは如何に進󠄁行して來たかは上表の日銀券󠄁の發行高によつても之をうかゞい得るであらう。<br> | |||
上表に於ても見る如くであるが、日銀券󠄁發行高は、十二年六月󠄁卽ち事變發生當時には十六億圓見當であつたものが九月󠄁には十七億に、十二月󠄁末からは二十億圓台に上り、十三年には二十億圓台を示し、十二月󠄁末には二十七億圓にまで達󠄁してゐる。 | |||
而して十四年中も漸次󠄁上昇しつゝ十二月󠄁末には三十六億の膨大なる數字を示し、爾來今日に至るまで三十億圓台水準を持續󠄁してゐるのである。<br> | |||
この日銀券󠄁發行高は勿論全󠄁部が流通󠄁界にあるわけではなく、朝󠄁鮮、台灣銀行の發券󠄁準備となる部分󠄁が最近󠄁著󠄁ぢるしく增加してゐる事にもよるのである。 | |||
例へば之等發券󠄁銀行の發行準備高は、十一年九月󠄁末には八三、七二一千圓であつたものが十二年同月󠄁末一一八、二八六千圓・十三年同月󠄁末二一九、五三四千圓・十四年同月󠄁末二二八、〇六四千圓・並びに十五年同月󠄁末二九〇、九八七千圓にまで增加してゐるのである。 | |||
卽ち事變前󠄁の十一年九月󠄁末に比すと十五年同月󠄁末には三倍半󠄁弱󠄁の大きに及んでゐるのであるが、之等を差引いて見ても次󠄁の上表に見る如く、其の流通󠄁高は著󠄁しい上昇になつてゐる。 | |||
次󠄁にこの騰󠄁勢を物價側について求めるば{{原文ママ}}ならば、下表の如くである。 | |||
<br clear="left"> | |||
<div style="float: left;"> | |||
{| border="1" rules="none" style="margin: 0px 30px 0px 20px;" | |||
|+'''日銀券󠄁純流通󠄁高'''(單位千圓) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| ​ | |||
| | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 年月󠄁末 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 發行高 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十一、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一、三三九、六〇三 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十二、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一、五九〇、三七〇 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十三、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一、八七五、四四一 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十四、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 二、四〇五、七九八 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十五、九 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 三、三一三、七一四 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| ​ | |||
| | |||
|} | |||
</div> | |||
<div style="float: left;"> | |||
{| border="1" rules="none" style="margin: 0px 30px 0px 20px;" | |||
|+'''商工省物價指數''' | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 卸 賣 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 小 賣 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十一年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一〇一、二( 三、九) | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 九四、八( 四、八) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十二年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一二三、八(二二、三) | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一〇四、二( 九、九) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十三年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一四〇、二(一三、二) | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一二一、六(一六、六) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十四年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一五三、七( 九、六) | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一三八、七(一四、〇) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| <span style="display:inline-block; transform-origin: left; transform: scale(0.5, 1); margin: 0em -2em 0em 0em;">十五、六</span>月󠄁 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一六五、九(一一、五) | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一六三、五(二〇、九) | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 七月󠄁 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| …………………………… | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一六八、七(二四、二) | |||
|} | |||
</div> | |||
<div style="clear: both; font-size: 80%; text-indent: 3em;"> | |||
卸賣、昭和四年十二月󠄁=一〇〇 小賣、昭和四年二十六日=一〇〇 | |||
( )內は前󠄁年または前󠄁年同月󠄁に對する騰󠄁貴% | |||
</div> | |||
更󠄁に生計費指數について之を見れば、右の小賣物價の騰󠄁貴は生計費の著󠄁しい騰󠄁貴となつて現はれてゐるのである{{原文ママ|句点なし}}內閣の發表せる生計費指數によれば、本年五月󠄁迄の一ヶ年の騰󠄁貴は、勞働者󠄁二〇・八%給料生活者󠄁一九・三%となつてゐる。 | |||
{| border="1" rules="none" style="float: left; margin: 0px 30px 0px 20px;" | |||
|+'''生計費指數''' <span style="font-size: 80%;">內閣統計局、十二年七月󠄁=一〇〇</span> | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 勞働者󠄁 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 給料生活者󠄁 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十二年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一〇一、五 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一〇一、四 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 十三年 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一一〇、〇 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一〇九、五 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| <span style="display:inline-block; transform-origin: left; transform: scale(0.5, 1); margin: 0em -2em 0em 0em;">十四、五</span> | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一一九、五 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一一八、四 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| <span style="display:inline-block; transform-origin: left; transform: scale(0.5, 1); margin: 0em -2em 0em 0em;"> 〃 九</span> | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一二四、三 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一二二、七 | |||
|- style="font-size: 80%;" | |||
| style="padding: 0px 25px;"| <span style="display:inline-block; transform-origin: left; transform: scale(0.5, 1); margin: 0em -2em 0em 0em;">十五、五</span> | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一四四、三 | |||
| style="padding: 0px 25px;"| 一四一、二 | |||
|} | |||
<br> | |||
しかしこれ等の指數は必ずしも實情󠄁を正しく反映してゐるものでない事は云ふ迄もない。 | |||
例へば公󠄁定價格に準據した個々の品々の騰󠄁貴については實際の動きを完全󠄁に示さないからである、が右表により大體に於ての我が國の事變以來の狀勢を知る事が出來るのであろう{{原文ママ|あらう}}。 | |||
<br clear="left"> | |||
=== 三、インフレーシヨンの影響󠄁 === | |||
先にも述󠄁べた如く貨幣󠄁は現今經濟社󠄁會の中心的な基礎をなすものであるから、貨幣󠄁價値の下落であるインフレーシヨンの及ぼす影響󠄃も亦、廣範多岐有󠄁らゆる方面に及ぶのである。 | |||
貨幣󠄁の變動に伴󠄁ふ影響󠄂は之を對外價値並に對內價値に分󠄁けて考へられる。<br> | |||
先づ貨幣󠄁の對外價値低落の影響󠄂について見れば、之は結局外國爲替相場の下落と云ふ事になる。<br> | |||
卽ち、インフレーシヨンによる物價騰󠄁貴は、輸󠄁入に對して奬勵的に、輸󠄁出に對しては抑壓的に作用して、結局對外支󠄂拂額を增加させるのである。 | |||
而して對外支󠄂拂額の增加は卽ち外國貨幣󠄁に對する需要󠄁の增加となつて現はれるから、外國爲替相場の下落と云ふ事になるのである。<br> | |||
更󠄁󠄁󠄁にインフレーシヨンの繼起󠄁する場合は、各人は貨幣󠄁價値の安定に對して信任を失ひ資󠄁本資󠄁逃󠄂避󠄁{{原文ママ|資󠄁本逃󠄂避󠄁}}が行はれその結果價値の安定した外國通󠄁貨を購󠄂入する事になる。 | |||
之は外國貨幣󠄁に對して異常なる需要󠄁を喚起󠄁するのであるがこの傾向は前󠄁者󠄁と相俟つて外國爲替相場を一層󠄁下落させるのである。<br> | |||
次󠄁に貨幣󠄁の對內價値の低落は、國內に於ける購󠄂買力の減少を意味するものであり<span style="display: inline-block; transform: rotateZ(-90deg)">、</span>{{原文ママ|活字の向きのミス}}物價騰󠄁貴となつて現はれるのは旣に明󠄁らかな所󠄁である。 | |||
而して物價騰󠄁貴の及ぼす影響󠄂は、決して一樣のものではないが、各部門に擴大されるに至る迄には略々一定の順序が見られるのである。<br> | |||
先づ外國輸󠄁入品の價格の上騰󠄁——輸󠄁入原料品により生產せられる物品の騰󠄁貴——內國產の原料品及び食󠄁料品の騰󠄁貴——株式の騰󠄁貴——賃銀及び給料の上昇——貸付資󠄁本に對する利子の上昇<br> | |||
之は固より嚴格なる順序ではないが、物價の騰󠄁貴は大體右の樣な過󠄁程󠄁をたどつて各部門に擴大されるのである。 | |||
斯くの如く一般物價の騰󠄁貴の結果は、生產者󠄁は當然利潤を高め當該產業部門の株式は上騰󠄁して資󠄁金の流動を見るから生產は增加されることになる。 | |||
生產增加の爲の勞働力の需要󠄁は勞銀を高め、勞銀の上昇は、一切の生產のコストを高め再び財價格の騰󠄁貴と云ふ事になるのである。<br> | |||
之を消󠄁費方面から觀察すると、斯る一般物價の上昇の結果、生活費は極度の膨脹を見るのであつて、一般所󠄁得の增加が之に伴󠄁はないならば、生活上の一大不安を來す事となるのは云ふ迄もない。 | |||
而るに前󠄁記󠄂の如く一般所󠄁得の增加は決して一樣のものではないのである。<br> | |||
卽ち物價騰󠄁貴の初期に於ては、賃銀及び給料の上昇は極めて緩󠄁漫であり、それよりも更󠄁に遲󠄃れるのは、貸付資󠄁本に對する利子である。 | |||
故に急󠄁激な物價騰󠄁貴の場合には、給料生活者󠄁に次󠄁いで大なる影響󠄃を受けるものは、貸付資󠄁本に對する利子の所󠄁得者󠄁、卽ち預金利子、株式の配當等の如き一定額の收入によつて生活を維特{{原文ママ|維持}}する者󠄁及び恩給、年金を受くるもの等がそれである。<br> | |||
之に反して物價騰󠄁貴によつて利する者󠄁は、債務者󠄁である。 | |||
債務者󠄁は、價値の高かりし貨幣󠄁を借り入れて、價値の下落した購󠄂買力の低い貨幣󠄁を返󠄁濟するのであるから、彼等の債務は實質上、輕減した事になる。<br> | |||
インフレーシヨンの各階級に及ぼす影響󠄃は、大體以上の如くであるが一度インフレ!シヨン{{原文ママ|インフレーシヨン}}が起󠄁るとそれは二度、三度と繼起󠄁して行く可能性を有󠄁し、貨幣󠄁所󠄁有󠄁者󠄁は其の度每に貨幣󠄁價値下落に基く損害󠄂を蒙るから、その損害󠄂から免󠄁かれる爲に受取つた貨貨{{原文ママ|貨幣󠄁?}}は出來る丈󠄁早く支󠄂拂に用ひる樣になる。 | |||
卽ち貨幣󠄁の形に於ける所󠄁有󠄁を商品の形に於ける所󠄁有󠄁に變更󠄁し樣と努力するのであるが、その結果貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度は大となり、これは貨幣󠄁量の增加と同じ結果となるから、ます/\物價騰󠄁貴に拍車をかける事になる。<br> | |||
而して斯かる急󠄁激なるインフレーシヨンは、主として戰時等に於て起󠄁るものであるが、斯くの如き分󠄁配關係の不均衡によつて國民生活は極度に脅やかされ、又󠄂一方生產者󠄁は生產を延󠄂遲󠄃{{原文ママ|遲󠄃延󠄂?}}させれば遲󠄃延󠄂させる程󠄁、換言すれば費用と生產價格との開きを時間的に大ならしめれば大ならしむる程󠄁、有󠄁利となるのであるから、この事は生產諸󠄀力の著󠄁しい低下を齎らし、生產力の低下は戰爭の爲の著󠄁しい需要󠄁と矛盾を來して國䇿遂󠄂行上致命的の障害󠄂となる。<br> | |||
又󠄂、戰時に於ては普通󠄁戰費の大部分󠄁は公󠄁債によつて償はれるのであるが、インフレーシヨンによる債權關係の破壞は戰費の調󠄁達󠄁を不可能たらしめるのである。<br> | |||
如斯インフレーシヨンの及ぼす彰響󠄃{{原文ママ|影響󠄃}}は、實に廣範多岐に亘り、引いては國家機󠄁構󠄁の破壞と云ふ結果をも招來し兼󠄁ねないのであるから、我々は何としてもこの惡性インフレーシヨンを防止しなければならないのである。 | |||
=== 四、我國に於ける物價對策 === | |||
次󠄁にインフレーシヨンの對䇿に入るわけであるが、我國の事態に於ては對外關係に於けるインフレーシヨンの對䇿は、爲替相場維持として旣に與へられた前󠄁提となつてゐるから、インフレーシヨンの對䇿は國內關係を中心として求める事にする。 | |||
而してインフレーシヨンの國內的現𧰼形態は結局物價の騰󠄁貴に歸着するのであるから、此處では物價對䇿を主として述󠄁べて行く。<br> | |||
物價對䇿には、貨資󠄁{{原文ママ|貨幣󠄁}}側からする對䇿と物資󠄁側からする對䇿とがある。<br> | |||
貨幣󠄁側からは、國民購󠄂買力の吸收及び資󠄁金流通󠄁の調󠄁整がそれである。<br> | |||
我が國の如く、金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、軍需品の需要󠄁が現在與へられた軍需品生產力を越える場合には、消󠄁費生產の生產擴張を抑制して、抑制部分󠄁を軍需生產部門へ流入するか、或は旣存の消󠄁費財生產構󠄁造󠄁を再編󠄁成󠄁するかの方法に依らねばならないのであるが、斯かる繰作{{原文ママ|操作}}を可能ならしめる手段は、增稅及び公󠄁債の發行等による國民の購󠄂買力の吸收に外ならない。 | |||
乍然、增稅の程󠄁度は極く限られてゐるから、專ら公󠄁債の發行に依るより外にないのである。 | |||
然し、この公󠄁債の發行も唯、中央銀行が引受けて手許に所󠄁有󠄁してゐる場合には斯かる軍需品生產擴大繰作{{原文ママ|操作}}の圓滑なる運󠄁行は不可能なのである。 | |||
何故ならば、市中銀行は、政府財政の膨脹によつて撒布せられた國民の所󠄁得增加によつて、增大すべき消󠄁費財貨需要󠄁に應じて擴張せんとする消󠄁費財生產に對して、必要󠄁なる貸出をし得る狀態にあるからである。 | |||
從つて銀行の資󠄁金は統制されなければならないが、この統制の第一の方法は中央銀行のオープン マーケツト オパレーシヨンに他ならない。 | |||
卽ち、オープン マーケツト オパレーシヨンによつて銀行の許與する所󠄁の生產信用は公󠄁債投資󠄁によつて抑制せられるからである。<br> | |||
然して公󠄁債發行は、物財的には政府の軍需品の購󠄂入に他ならないのであるから、銀行が公󠄁債へ投資󠄁をなすと云ふ事は、換言すれば、消󠄁費財生產擴張を抑制して軍需品生產擴張を助長する事になるのである。 | |||
かゝる意味に於て、オープン マーケツト オパレーシヨンは、インフレーシヨン抑制の手段として遂󠄂行されなければならないが、然し、インフレーシヨンを抑制する手段としては之のみにては不可能である。 | |||
何故ならば軍需品生產工業の擴張の爲に、より大なる生產信用が要󠄁求せられる事になり、之は銀行の公󠄁債投資󠄁と矛盾するからである。 | |||
故にこの問題に對しては、當然國家の資󠄁金統制運󠄁動を必然ならしめるのである。<br> | |||
貨幣󠄁側に於ける對䇿は以上の如くであるが、之のみにてはインフレーシヨンの發展が全󠄁く停止されるわけのものではなく、それには、物資󠄁側よりの貨格{{原文ママ|價格}}の抑制及び配給の調󠄁整によつて補充されなければならなぬ{{原文ママ}}のである。<br> | |||
價格の抑制䇿としては、暴利取締及び價格の公󠄁定であり、配給調󠄁整䇿としては物資󠄁使󠄁用の法的制限、及び物資󠄁割󠄀當配給制がそれである。<br> | |||
物資󠄁需給の方䇿としては、積極的にそれ等物資󠄁の供給增加が問題となるが、增產の爲の生產力擴充は、それ自體物資󠄁需要󠄁を換起󠄁{{原文ママ|喚起󠄁}}するばかりでなく、國內に資󠄁源の缺けたものに就ては生產力を擴張すべき方䇿がないのである。 | |||
故に當面の對䇿としては輸󠄁入增加と云ふ事が重要󠄁問題であるが、我國に於ては金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、增大すべき軍需品需要󠄁に應じて一般消󠄁費財の輸󠄁入制限は不得已事である。<br> | |||
如斯、生產の擴張は期待されぬ一方、購󠄂買力はます/\增大するのであるから、こゝに於て國家統制による需給の調󠄁節󠄂が必要󠄁となつて來るのである。 | |||
卽ち暴利取締から價格の公󠄁定に及び更󠄁に生活必需品に對しては切符割󠄀當制にまで進󠄁むのである。<br> | |||
先づ暴利取締に次󠄁ぐ段階としてはかゝる物資󠄁に對して、最高、最低又󠄂は標準價格を公󠄁定することが必要󠄁である。 | |||
勿論かゝる價格の公󠄁定に對しては嚴重なる監視󠄁を行ふことが必要󠄁であるが、それが生活必需品であり、而もその供給數量が禁止的に制限される事になると、假令價格の公󠄁定が行はれても、事實に於ける適󠄁用は困難󠄀になり、當然闇相場の出現は免󠄁れ得ないであろう{{原文ママ|あらう}}。 | |||
何故ならば、一方に於て供給は極度に制限せられるのに、他方需要󠄁は制限されないのみならず、購󠄂買力の增加によつて益󠄁々增大する可能性があるからである。 | |||
尤も供給が極度の制限によつて完全󠄁な品不足になつて終󠄁ふ樣な場合には問題ではない。 | |||
併し、そう{{原文ママ|さう}}した場合には其の物資󠄁に對する購󠄂買力は他の商品に向けられ當然それ等の價格騰󠄁貴を招來し得るのである。<br> | |||
如斯、生活必需品や日常使󠄁用品の供給が相當限られるやうになると、價格の公󠄁定が行はれても價格の抑制は殆んど不可能である。 | |||
隨つて次󠄁の段階の切符による割󠄀當配給制にまで進󠄁むのである。 | |||
固より切符配給の場合に於ても切符に對する闇相場は免󠄁れないのであるが、それが生活必需品であり、その割󠄀當量が最少限度に留まる場合にはかゝる闇相場の出現は緩󠄁和せられるであらう。 | |||
故にこの切符割󠄀當制は生活必需品のそれも或一部に限られるのであつて、之を全󠄁財貨に適󠄁用する事は到底不可能な事である。 | |||
從つて、一般的に云へば、需要󠄁の調󠄁整は、他の方䇿に依らねばならぬのである。<br> | |||
それは國民の自發的節󠄂約に外ならない。 | |||
卽ち國民は、消󠄁費財貨に對する需要󠄁を出來得る限り節󠄂約する事である。 | |||
と同時に、其の節󠄂約部分󠄁を貯蓄手段に轉じなければならない。 | |||
而してこの貯蓄手段は、信用機󠄁關に貯蓄せられるか、又󠄂は直󠄁接公󠄁債を購󠄂入するかの方法が採󠄁られねばならない。 | |||
この貯蓄手段は何れにしても社󠄁會經濟的意義は同じになるであらう。 | |||
何故ならば信用機󠄁關に託した場合に於ても信用機󠄁關はこの貯蓄分󠄁を再び公󠄁債に投資󠄁せねばならないからである。 | |||
而して公󠄁債を購󠄂入すると云ふ事は、その金額だけ消󠄁費財を節󠄂約し、軍需品製產に對して協力する事になるのである。<br> | |||
以上物價對䇿の主流を述󠄁󠄁べたに過󠄁ぎないが、之を要󠄁するに、一方貨幣󠄁側に於ては購󠄂買力の吸收を行ふと同時に、銀行資󠄁金流動を統制し、他方物資󠄁側に於ては、價格の公󠄁定、物資󠄁割󠄀當配給制等を行つて物資󠄁需要󠄁の調󠄁制を確立てし{{原文ママ|して}}行けば、インフレーシヨンの本格化を抑制する事が出來るのであるが、この間にあつて最も重要󠄁な役割󠄀を果すものは、國民の消󠄁費節󠄂約の勵行である。(十五年九月󠄁) | |||
== 脚注 == | |||
<references /> | |||
== 関連項目 == | |||
*[[唐澤貴洋の親類縁者一覧]] | |||
{{デフォルトソート:いんふれーしょんとぶっかたいさく}} | |||
[[カテゴリ:資料]] | |||
{{広告}} |
2023年2月20日 (月) 00:38時点における最新版
インフレーシヨンと物價對策(いんふれーしょんとぶっかたいさく)は、明治大学専門部女子部商科二年の柳下喜代(尊師の母方祖母)が、『明治大学女子部創立十周年記念論文集 : 皇紀二千六百年』に寄稿した論文である。
全文
インフレーシヨンと物價對策
商科二年 柳下きよ
目次󠄁
序
一、インフレーシヨンの意義
數量說による賃幣󠄁[原文ママ]價値の決定
貨幣󠄁價値決定に關する諸󠄀學說
貨幣󠄁價値の表現
インフレーシヨンの意義
二、インフレーシヨンの顯現形態
貨幣󠄁インフレーシヨン
信用インフレーシヨン
現今に於ける我が國[原文ママ]戰時經濟とインフレーシヨン
三、インフレーシヨンの影響󠄃
四、インフレーシヨンと物價對策[原文ママ]
序
現今の我國民經濟生活にとつて、インフレーシヨンの問題が如何に重要󠄁であるかは、此處に云ふ迄もない事である。
インフレーシヨンの進󠄁行は、我が國民經濟に於ける生產諸󠄀力に影響󠄂し、戰時體制の基礎を破壞するのであるから、我々は凡る努力と犧牲とによりインフレーシヨンの防止に當らなければならない。
然るに、戰爭と貨幣󠄁價値維持とは常に相容れない問題で、從來の例にも見る如く、其の程󠄁度の差こそあれ、戰爭には必ずインフレーシヨンはつきものである。
而して近󠄁代的戰勝󠄁の意味は、單に局部的領土の占領を指すのではなく、敵國の國家機󠄁構󠄁を破壞して、國家としての生存を不可能ならしめるにあるから、國家機󠄁能の最も根本的なる經濟體制は最も强力に組立てられ、其の機󠄁能は、保全󠄁されねばならないのである。
而して、經濟機󠄁構󠄁の根本的な基礎をなすものは、貨幣󠄁價値である。
故に貨幣󠄁價値の下落によつて有󠄁らゆる經濟機󠄁構󠄁が破綻を生ずれば、最早や國家としての存續󠄁は不可能となり、戰果は旣に明󠄁らかな所󠄁である。
如斯貨幣󠄁價値の維持、換言すればインフレーシヨンの防止は、戰時經濟政䇿の重要󠄁なる課題であり、又󠄂凡る戰時經濟政䇿がこの一點に向つて集中されてゐる事は、此處に論ずる迄もない事である。
而して、私はこの小論に於て、インフレーシヨンの意義を明󠄁らかにし、次󠄁にインフレーシヨンが如何なる形體に於て顯現するかを把握し、次󠄁でインフレーシヨンの影響󠄂を考察して、最後にインフレーシヨンの對䇿を究明󠄁すん[原文ママ]と意圖󠄃するものである。
一、インフレーシヨンの意義
數量說による貨幣󠄁價値の決定
インフレーシヨンと云ふ言葉は、極めて一般的に使󠄁用されてゐるにも拘らず、其の內容の規定は極めて區󠄁々である。
例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg[原文ママ] に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう[原文ママ]。…………」⑴ とせられ、荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴[原文ママ]を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。
斯くの如くインフレーシヨンの規定は區󠄁々であるが、其れが貨幣󠄁價値の下落に關する事であり、其の原因を貨幣󠄁數量の增加に求める傾向にあり、然も量と共に其の流通󠄁速󠄁度にも變化ある事及び結果的にも必ず物價騰󠄁貴ある事が一般に認󠄁識せられてゐる所󠄁である。
かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。
而して、貨幣󠄁價値決定に當つては、根本原因として、アーヴイング・フイツシヤー氏の數量說によるを今日の通󠄁說にして同時に又󠄂、適󠄁當なるも[原文ママ]と考へるのであるが、フイツシヤー氏の數量說に更󠄁に修正要󠄁素を加へられた春日井先生は次󠄁の如く說かれてゐる。
「一財貨の交󠄁換價値は其の財貨の効用性と稀少性によつて生じ、其の高は同樣にして生ぜる他の財貨の價値との比例に外ならない。
然らば貨幣󠄁の交󠄁換價値も同樣に貨幣󠄁對一般財貨の間に於ける効用及稀少性の比率󠄁關係によると解すべきである。
之を他面より考察するに貨幣󠄁は本來流通󠄁財貨と對立關係に立ち、全󠄁流通󠄁財貨量と全󠄁貨幣󠄁流通󠄁量とは凡て等價の關係に在る。
然るに貨幣󠄁は價値流通󠄁の要󠄁具󠄁にして交󠄁換以外の一方的價値流通󠄁にも使󠄁用さるゝを以て、流通󠄁する財貨と對立關係にあるのは、之等に用ひられたる貨幣󠄁額を除外したる部分󠄁である。
更󠄁に今日の社󠄁會にては小切手等の信用要󠄁具󠄁が交󠄁換等に於ける財貨と對立し、且つ屢々物々交󠄁換も行はれ、流通󠄁を本性とする商品以外の財產たる資󠄁本も貨幣󠄁と交󠄁換されて對立關係となる。
かくして除外例を附したる貨幣󠄁對財貨の關係は、平󠄁等對立關係にして一定の時、所󠄁に於ける前󠄁者󠄁の全󠄁額と後者󠄁の全󠄁額とは全󠄁く等價となるべきである。
然るに流通󠄁財貨の一定の時に於ける量は事實上判󠄁定不可能である。
故に一定時日間を通󠄁じてなさるゝ財貨の流通󠄁量を選󠄁び、之を同一時日間に全󠄁貨幣󠄁の流通󠄁せる回數を貨幣󠄁に乘じたるものと對立せしむべき事となる。」⑶
となされ、フイワシヤー[原文ママ]の所󠄁謂交󠄁換方程󠄁式𝑇𝑃=𝑀𝑉+𝑀′𝑉′を修正されて、全󠄁貨幣󠄁活働額よりは一方的價値流通󠄁として活働せる量を除かれ、全󠄁流通󠄁財貨よりは、相殺取引、物々交󠄁換高を除外され、資󠄁本財流通󠄁高除外を附加されて次󠄁の如くなされたのである。
𝑃= 𝑀𝑉+𝑀′𝑉′−𝑚 𝑇+𝐶−2𝐵
∴ 1𝑃= 𝑇+𝐶−2𝐵 𝑀𝑉+𝑀′𝑉′−𝑚
𝑃=一般物價 𝑇=[原文ママ]商品流通󠄁高
𝐵=物々交󠄁換及相殺取引高 𝑀=貨幣󠄁高
𝑉=貨幣󠄁流通󠄁速󠄁度 𝑀′=信用(貨幣󠄁代用物の高)
𝑉′=信用の流通󠄁速󠄁度 𝐶=資󠄁本財流通󠄁高
𝑚=一方的支拂に用ひられたる貨幣󠄁高⑷[原文ママ] 1𝑃=貨幣󠄁[原文ママ]價値
貨幣󠄁價値は斯の如く除外例を附したる財貨對貨幣󠄁の對立關係の比率󠄁に求むべきであつて私も亦、春日井敎授󠄁の說に追󠄁從するものである。
⑴ 橋爪明󠄁男著󠄁「貨幣󠄁理論」[1]
⑵ 荒木光太郞著󠄁「貨幣󠄁槪󠄁論」[2]
⑶ 春日井先生著󠄁「貨幣󠄁及金融原理」[3]九九頁參照。
⑷ 春日井先生著󠄁 前󠄁揭書一〇四頁參照。
貨幣󠄁價値決定に對する諸󠄀學說(數量說反對說としての)
然るに貨幣󠄁數量說に對しては種々なる反對說がある。今、其の二、三を次󠄁に擧げて見ると、
品 質 說
[原文ママ]この說によれば、貨幣󠄁の流通󠄁に對して抱󠄁く世人の信任の變化、換言すれば貨幣󠄁の品質に對する判󠄁斷が貨幣󠄁價値に極めて重大なる影響󠄂を及ぼす、と云ふのである。
而して、貨幣󠄁の流通󠄁に對する信任の動搖は、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度を增大させて商品の側に於ては賣り惜み、と云ふ現𧰼が現はれ、この兩者󠄁が相俟つて貨幣󠄁の價値を異常に低下させるから、貨幣󠄁價値決定上、その數量のみでなく、信任の要󠄁素卽ち品質も亦重要󠄁なる役割󠄀をなすと云ふのである。
乍然、この說に云ふ商品販賣者󠄁が賣惜しむのは、將來貨幣󠄁が增發されて、流通󠄁貨幣󠄁量が增加し、その結果貨幣󠄁價値が低下するだらうと云ふ豫測だからであり、貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度の增大が貨幣󠄁價値に影響󠄃するのは、それが流通󠄁貨幣󠄁積數を增加させるからであり、この說は結局數量說の否定ではなくして、數量說を前󠄁提として始めて說明󠄁可能なのである[原文ママ]
商 品 說
この說によれば、貨幣󠄁の價値はそれを構󠄁成󠄁する材料の商品價値によつて決定されるとなすのである。
乍然、貨幣󠄁は商品に非ずして其の價値は、素材の價値とは全󠄁く獨立なる經濟手段である。
故に地金の價値と貨幣󠄁の價値との關係について商品說の唱へる所󠄁は正鵠を失するものである。
卽ち鑄貨等の如く商品に還󠄁元し得る貨幣󠄁については一應適󠄁用するものであるが、實際價値以上の大なる通󠄁用力を有󠄁する補助貨幣󠄁に於ては適󠄁合し難󠄀いものであり、更󠄁に不換紙幣󠄁の如く商品還󠄁元の無意味なる貨幣󠄁については全󠄁く適󠄁合し得ぬものである。
主 觀 價 値 說
貨幣󠄁が使󠄁用價値を有󠄁せぬ點より貨幣󠄁價値を交󠄁換價値として說明󠄁するのであるが然し、一方に於て價格に對する貨幣󠄁價値の獨立性を認󠄁めて、貨幣󠄁の交󠄁換價値については第一次󠄁的交󠄁換價値と第二次󠄁的の交󠄁換價値とを認󠄁めるのである。
而して前󠄁者󠄁を內部交󠄁換價値とし、後者󠄁を外部交󠄁換價値として、この內部交󠄁換價値が價値の變動の原因をなす所󠄁の貨幣󠄁の價値であるとするのである。
卽ち貨幣󠄁の價値は、貨幣󠄁に對する主觀的評󠄁價を通󠄁じて決定されると見る所󠄁の學說である。
この說も結局貨幣󠄁品質說と同樣に數量說を基本としてのみ說明󠄁可能であり數量說に對立する學說ではない。
職 分󠄁 說
職分󠄁說又󠄂は需給說は、貨幣󠄁に對する需用[原文ママ]供給が貨幣󠄁價値を決定するとなし、而して貨幣󠄁に對する需要󠄁とは、商品勞務を提供して貨幣󠄁を得んとする慾求である。
供給とは、貨幣󠄁によつて商品、勞力を得んとする慾求である。
故に前󠄁の要󠄁求が强ければ物價は低落し、後の要󠄁求が强ければ物價は騰󠄁貴するとなすのである。
固より貨幣󠄁の價値を現實に決定するものは需要󠄁、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣󠄁數量說に云ふ所󠄁の他の事情󠄁にして同一なれば供給數量によるとの說に外ならぬのである。
斯の如く、從來貨幣󠄁數量說に對しては幾󠄁多の論あるに不拘、數量說が依然として貨幣󠄁經濟社󠄁會に於ける貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁する最基本的な理論たる所󠄁以は、數量說を他にしては貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁することは不可能であり、又󠄂數量說に對立する所󠄁の第二の貨幣󠄁理論の無い爲である。
貨幣󠄁價値の表現
然らば貨幣󠄁價値は何によつて表現されるかに就いては、一般物價指數の逆󠄁數によつて貨幣󠄁價値の正當なる表現と見るものである。
卽ち貨幣󠄁の價値を其の交󠄁換價値と解釋する時は、この交󠄁換價値卽ち購󠄂賣力は、諸󠄀種の財貨を取得し、又󠄂は勞務を享受する場合に實現し、交󠄁換比例に於て數字的なる表現を見るものである。
故に、例へば米一俵十八圓なりと云ふのは、米と貨幣󠄁との交󠄁換比例である。
この場合、貨幣󠄁十八圓の交󠄁換價値は米一俵で表現せられ、又󠄂逆󠄁に、米の價値は米と對立して交󠄁換される貨幣󠄁の量、卽ち十八圓なる價格に表現されるべきものである。
卽ち價格なるものは、財貨にのみ存するのではなく、貨幣󠄁の方面から見れば同じく其の交󠄁換價値を示すものである。
故にこの場合の貨幣󠄁の價値は、其一定量が交󠄁換により支󠄂配する米の量に依つて表現されると共に、一定量の米に對して提供される貨幣󠄁の量、卽ち米の價格の逆󠄁數に依つても表現される事になる。
貨幣󠄁と交󠄁換される價値物の種類󠄀は極めて多き故に、その財貨及び勞務の諸󠄀價格總合平󠄁均位を求めた所󠄁謂 一般物價指數の逆󠄁數によつて貨幣󠄁價値を表現するとなすのである。
然るに職能價値說の論者󠄁は諸󠄀物價の平󠄁均的中心的な變化其のものを否定し、引いては諸󠄀物價の中心的な地位と規定された物價水準や一般貨幣󠄁價値の思想を無用なりとなすものである。
通󠄁貨の事情󠄁によつて諸󠄀商品價格の影響󠄃されることは是認󠄁するが、この關係は貨幣󠄁と個々の商品價格に直󠄁接なものであり、平󠄁均的な物價水準と云ふ樣な觀念を通󠄁しての關係ではないと云[原文ママ]のである。
乍然、貨幣󠄁の購󠄂買力が物價水準によつて表現されると云ふのは、貨幣󠄁の購󠄂買力其のものゝ性質から見て固よりさうならなければならぬのであつて、決して現實的な諸󠄀物價の變化に平󠄁均的中心的な變動があるといふのではない。
然るにこの論者󠄁は、現實的な諸󠄀物價の動きにかゝる平󠄁均的中心的な動きがないといふので物價水準の思想から、貨幣󠄁の一般的購󠄂買力の思想までを無用のものと爲すのである。
インフレーシヨンの意󠄁義
以上の如く貨幣󠄁價値の決定並にその表現について明󠄁らかとなつたから、貨幣󠄁價値の下落であり、物價騰󠄁貴であると前󠄁提する所󠄁のインフレーシヨンの意義も自から解せられる所󠄁である。
卽ちインフレーシヨンとは、通󠄁貨量の增大によつて通󠄁貨と生產取引される物貨との釣合ひが破壞せられ、通󠄁貨の價値の低落した狀態である、と規定し得るであらう。
二、インフレーシヨンの顯現形態
インフレーシヨンは、斯くの如く、商品流通󠄁量に比して流通󠄁する通󠄁貨量の增大に起󠄁因する所󠄁の貨幣󠄁價値の低落した狀態である事が明󠄁らかとなつたのであるが、然らばインフレーシヨンは如何に顯現し發展するか。
その顯現形態を次󠄁に述󠄁べる事にする。
今日の如き信用經濟の發達󠄁せる社󠄁會に於ては、一槪󠄁に通󠄁貨と云つても、通󠄁貨なるものは、現金通󠄁貨のみならず、その代用物として信用通󠄁貨(預金貨幣󠄁)の存する事は先の方程󠄁式によつても明󠄁らかな所󠄁であらう。
而して一般に前󠄁者󠄁に於けるインフレーシヨンを貨幣󠄁インフレーシヨンと云ひ、後者󠄁に於けるを信用インフレーシヨンと稱󠄁へる。
今之等の樣相を示せば次󠄁の如くである。
貨幣󠄁インフレーシヨン
貨幣󠄁の形態は、大體鑄貨、紙幣󠄁の二種である。
故にインフレーシヨンも亦、之等の貨幣󠄁の增加となつて現はれるのであるが先づ、鑄貨について見れば、今日に於ては、鑄貨そのものが貨幣󠄁形態の間に於て最も微々たる役割󠄀を爲してゐるのであるが、其の增加は、貨幣󠄁の購󠄂買力低下と、一方貨幣󠄁製造󠄁費の騰󠄁貴を惹起󠄁して、逐󠄁[原文ママ]には、貨幣󠄁の通󠄁用價値と、その製造󠄁費との交叉する點まで達󠄁し、通󠄁貨增發者󠄁に何等の利益󠄁をも齎さない事になるから、鑄貨のインフレーシヨンは極めて稀であり、又󠄂發生してもその程󠄁度は比較󠄁的微弱󠄁である。
次󠄁に紙幣󠄁によるイソフレーシヨソ[原文ママ]であるが、紙幣󠄁には兌換紙幣󠄁及び、不換紙幣󠄁があり、發行者󠄁には各政府と、銀行とがある。
先づ兌換紙幣󠄁の膨脹は其の兌換準備制度と密接な關係を有󠄁するのであるが之を要󠄁するに、兌換紙幣󠄁にあつては、その增發は、主として凖備金屬[原文ママ]、例へば金の增加に左右される。而して諸󠄀國が金本位制度を採󠄁用してゐる場合には、甲國に生じた金の增加も甲國にのみ停滯せず、物價騰󠄁貴、輸󠄁入超過󠄁、殘金決濟と云ふ順序によつて金の流出を見てインフレーシヨンの程󠄁度は著󠄁るしく緩󠄁和される事になるのである。
これに反し、不換紙幣󠄁に於ては原則として、その增發を制限すべき何物も存しないのである。
印刷設備さへあれば極めて迅󠄁速󠄁に、又󠄂殆んど無制限に製造󠄁する事が出來るのであるからそれは、不換紙幣󠄁の購󠄂買力が、製造󠄁費用を償ひうる迄、換言すれば不換紙幣󠄁が全󠄁然購󠄂買力を失つて終󠄁ふまで持續󠄁される可能性がある。
故にインフレーシヨンの危機󠄁はこの不換紙幣󠄁にこそ存する。
據て以下インフレーシヨンの對𧰼としての貨幣󠄁は專ら不換紙幣󠄁によるものとする。
而して不換紙幣󠄁の增發は、財政的の支󠄂出の增加に伴󠄁ひ巨󠄁額の紙幣󠄁を發行し、或は公󠄁債を發行して之を中央銀行に引受けさせる等の場合に見るのである。
從つてそれは中央銀行に於ける政府預金の增加、その撒布による民間預金の增加と云ふ事になり、之が銀行貸出の增加に道󠄁を開いて信用インフレーシヨンにまで進󠄁むのである。
信用インフレーシヨン
次󠄁に法律上の通󠄁貨ではないが、通󠄁貨と同じ働きをする通󠄁貨をも考へなくてはならない。
それは預金貨幣󠄁である。
預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、產業部門の要󠄁求に應じて銀行が基金を供給する事によつて起󠄁るものであつて、それは專ら銀行當座預金增加と云ふ形態をとつて顯はれる。
而してこの預金貨幣󠄁は、銀行が顧󠄁客に貸付割󠄀引を行ひ、その手取金を現金で與へずして顧󠄁客の當座勘定に記入し、これに對して小切手を振出させる方法によつて創造󠄁される所󠄁の銀行貸出による預金の創設である。
而して之は何れの銀行も一般に行ひ得る所󠄁であるが故に、この預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、銀行の意志如何によつて起󠄁り得る。
これ等の預金は其の性質上何時たりとも引出さるべきものであるから、經濟上に與へる影響󠄃に於て他の通󠄁貨と異る所󠄁はない。
以上の如くインフレーシヨンの形態は之を貨幣󠄁インフレーシヨン及び信用インフレーシヨンの二つの見地に區󠄁別する事が出來るのであるが、この二つのインフレーシヨンは、完全󠄁に一致するものではないが、然し大體に於て重り合ふ傾向を有󠄁するものである。
現今に於ける我が國の戰時經濟とインフレーシヨン
今述󠄁べた如くインフレーシヨンは貨幣󠄁(殊に不換紙幣󠄁)及び銀行預金增加の形態に於て發生するのであるが、しからば我が國の現今戰時經濟下に於ては、インフレーシヨンは何に起󠄁因し、又󠄂如何に發展してゐるか、を見れば次󠄁の如くである。
卽ち最近󠄁の我が國に於けるインフレーシヨンの原因は、それが日支󠄂事變に於ける戰爭需要󠄁の爲の財政膨脹である事は一般周󠄀知の所󠄁である。
常に戰時體制と戰費調󠄁達󠄁の爲の財政膨脹とは不可分󠄁なる問題であつて、戰時財政の膨脹につれて物價は騰󠄁貴する。
物價が騰󠄁貴すれば、戰爭の爲の需要󠄁を抑制する事は出來ないから、當然政府財政は物價が騰󠄁貴するだけ膨脹し、その膨脹によつて物價は一層󠄁の騰󠄁貴を助長する、と云ふ關係にあるのである。
而して政府の戰爭の爲の需要󠄁は絕對であり、この絕對の需要󠄁が急󠄁激に且つ多量に起󠄁る所󠄁に、戰時經濟の特徵󠄁が存してゐるのである。
斯かる財政膨脹の爲に政府の撒布する資󠄁金が急󠄁增するのは當然であつて、若し之が吸收の爲に適󠄁當な對䇿が講󠄁ぜられないならば、通󠄁貨の流通󠄁高の增大は計り得べくもないのである。
その結果物資󠄁は高騰󠄁を重ねてインフレーシヨンの本格化を惹起󠄁する事は言を俟たぬ所󠄁である。
一方物資󠄁側に之を見るならば、以上の如く戰時財政が增大した結果、軍需關係の生產力及び物資󠄁の不足が顯著󠄁となつて來たばかりでなく、平󠄁和關係の生產力の擴大は抑制され、又󠄂同時にこの種の商品の輸󠄁入の制限を强化せねばならぬ狀態に在るのであつて、財政支󠄂出の激增に比して全󠄁般的に生產力及び物資󠄁は不足となりつゝある。
亦斯かる需要󠄁の不均衡を目途󠄁とした買占、賣惜等の如き見越需要󠄁が右の傾向を一層󠄁助成󠄁するのである。
年月󠄁末 | 發行高 |
十一、九 | 一、四二三、三二五 |
十二、九 | 一、七〇八、六五七 |
十三、九 | 二、〇九四、九七六 |
十四、九 | 二、六三三、八六二 |
十五、九 | 三、六〇四、七〇二 |
事變以來我が國のインフレーシヨンは如何に進󠄁行して來たかは上表の日銀券󠄁の發行高によつても之をうかゞい得るであらう。
上表に於ても見る如くであるが、日銀券󠄁發行高は、十二年六月󠄁卽ち事變發生當時には十六億圓見當であつたものが九月󠄁には十七億に、十二月󠄁末からは二十億圓台に上り、十三年には二十億圓台を示し、十二月󠄁末には二十七億圓にまで達󠄁してゐる。
而して十四年中も漸次󠄁上昇しつゝ十二月󠄁末には三十六億の膨大なる數字を示し、爾來今日に至るまで三十億圓台水準を持續󠄁してゐるのである。
この日銀券󠄁發行高は勿論全󠄁部が流通󠄁界にあるわけではなく、朝󠄁鮮、台灣銀行の發券󠄁準備となる部分󠄁が最近󠄁著󠄁ぢるしく增加してゐる事にもよるのである。
例へば之等發券󠄁銀行の發行準備高は、十一年九月󠄁末には八三、七二一千圓であつたものが十二年同月󠄁末一一八、二八六千圓・十三年同月󠄁末二一九、五三四千圓・十四年同月󠄁末二二八、〇六四千圓・並びに十五年同月󠄁末二九〇、九八七千圓にまで增加してゐるのである。
卽ち事變前󠄁の十一年九月󠄁末に比すと十五年同月󠄁末には三倍半󠄁弱󠄁の大きに及んでゐるのであるが、之等を差引いて見ても次󠄁の上表に見る如く、其の流通󠄁高は著󠄁しい上昇になつてゐる。
次󠄁にこの騰󠄁勢を物價側について求めるば[原文ママ]ならば、下表の如くである。
| |
年月󠄁末 | 發行高 |
十一、九 | 一、三三九、六〇三 |
十二、九 | 一、五九〇、三七〇 |
十三、九 | 一、八七五、四四一 |
十四、九 | 二、四〇五、七九八 |
十五、九 | 三、三一三、七一四 |
|
卸 賣 | 小 賣 | |
十一年 | 一〇一、二( 三、九) | 九四、八( 四、八) |
十二年 | 一二三、八(二二、三) | 一〇四、二( 九、九) |
十三年 | 一四〇、二(一三、二) | 一二一、六(一六、六) |
十四年 | 一五三、七( 九、六) | 一三八、七(一四、〇) |
十五、六月󠄁 | 一六五、九(一一、五) | 一六三、五(二〇、九) |
七月󠄁 | …………………………… | 一六八、七(二四、二) |
卸賣、昭和四年十二月󠄁=一〇〇 小賣、昭和四年二十六日=一〇〇
( )內は前󠄁年または前󠄁年同月󠄁に對する騰󠄁貴%
更󠄁に生計費指數について之を見れば、右の小賣物價の騰󠄁貴は生計費の著󠄁しい騰󠄁貴となつて現はれてゐるのである[原文ママ]內閣の發表せる生計費指數によれば、本年五月󠄁迄の一ヶ年の騰󠄁貴は、勞働者󠄁二〇・八%給料生活者󠄁一九・三%となつてゐる。
勞働者󠄁 | 給料生活者󠄁 | |
十二年 | 一〇一、五 | 一〇一、四 |
十三年 | 一一〇、〇 | 一〇九、五 |
十四、五 | 一一九、五 | 一一八、四 |
〃 九 | 一二四、三 | 一二二、七 |
十五、五 | 一四四、三 | 一四一、二 |
しかしこれ等の指數は必ずしも實情󠄁を正しく反映してゐるものでない事は云ふ迄もない。
例へば公󠄁定價格に準據した個々の品々の騰󠄁貴については實際の動きを完全󠄁に示さないからである、が右表により大體に於ての我が國の事變以來の狀勢を知る事が出來るのであろう[原文ママ]。
三、インフレーシヨンの影響󠄁
先にも述󠄁べた如く貨幣󠄁は現今經濟社󠄁會の中心的な基礎をなすものであるから、貨幣󠄁價値の下落であるインフレーシヨンの及ぼす影響󠄃も亦、廣範多岐有󠄁らゆる方面に及ぶのである。
貨幣󠄁の變動に伴󠄁ふ影響󠄂は之を對外價値並に對內價値に分󠄁けて考へられる。
先づ貨幣󠄁の對外價値低落の影響󠄂について見れば、之は結局外國爲替相場の下落と云ふ事になる。
卽ち、インフレーシヨンによる物價騰󠄁貴は、輸󠄁入に對して奬勵的に、輸󠄁出に對しては抑壓的に作用して、結局對外支󠄂拂額を增加させるのである。
而して對外支󠄂拂額の增加は卽ち外國貨幣󠄁に對する需要󠄁の增加となつて現はれるから、外國爲替相場の下落と云ふ事になるのである。
更󠄁󠄁󠄁にインフレーシヨンの繼起󠄁する場合は、各人は貨幣󠄁價値の安定に對して信任を失ひ資󠄁本資󠄁逃󠄂避󠄁[原文ママ]が行はれその結果價値の安定した外國通󠄁貨を購󠄂入する事になる。
之は外國貨幣󠄁に對して異常なる需要󠄁を喚起󠄁するのであるがこの傾向は前󠄁者󠄁と相俟つて外國爲替相場を一層󠄁下落させるのである。
次󠄁に貨幣󠄁の對內價値の低落は、國內に於ける購󠄂買力の減少を意味するものであり、[原文ママ]物價騰󠄁貴となつて現はれるのは旣に明󠄁らかな所󠄁である。
而して物價騰󠄁貴の及ぼす影響󠄂は、決して一樣のものではないが、各部門に擴大されるに至る迄には略々一定の順序が見られるのである。
先づ外國輸󠄁入品の價格の上騰󠄁——輸󠄁入原料品により生產せられる物品の騰󠄁貴——內國產の原料品及び食󠄁料品の騰󠄁貴——株式の騰󠄁貴——賃銀及び給料の上昇——貸付資󠄁本に對する利子の上昇
之は固より嚴格なる順序ではないが、物價の騰󠄁貴は大體右の樣な過󠄁程󠄁をたどつて各部門に擴大されるのである。
斯くの如く一般物價の騰󠄁貴の結果は、生產者󠄁は當然利潤を高め當該產業部門の株式は上騰󠄁して資󠄁金の流動を見るから生產は增加されることになる。
生產增加の爲の勞働力の需要󠄁は勞銀を高め、勞銀の上昇は、一切の生產のコストを高め再び財價格の騰󠄁貴と云ふ事になるのである。
之を消󠄁費方面から觀察すると、斯る一般物價の上昇の結果、生活費は極度の膨脹を見るのであつて、一般所󠄁得の增加が之に伴󠄁はないならば、生活上の一大不安を來す事となるのは云ふ迄もない。
而るに前󠄁記󠄂の如く一般所󠄁得の增加は決して一樣のものではないのである。
卽ち物價騰󠄁貴の初期に於ては、賃銀及び給料の上昇は極めて緩󠄁漫であり、それよりも更󠄁に遲󠄃れるのは、貸付資󠄁本に對する利子である。
故に急󠄁激な物價騰󠄁貴の場合には、給料生活者󠄁に次󠄁いで大なる影響󠄃を受けるものは、貸付資󠄁本に對する利子の所󠄁得者󠄁、卽ち預金利子、株式の配當等の如き一定額の收入によつて生活を維特[原文ママ]する者󠄁及び恩給、年金を受くるもの等がそれである。
之に反して物價騰󠄁貴によつて利する者󠄁は、債務者󠄁である。
債務者󠄁は、價値の高かりし貨幣󠄁を借り入れて、價値の下落した購󠄂買力の低い貨幣󠄁を返󠄁濟するのであるから、彼等の債務は實質上、輕減した事になる。
インフレーシヨンの各階級に及ぼす影響󠄃は、大體以上の如くであるが一度インフレ!シヨン[原文ママ]が起󠄁るとそれは二度、三度と繼起󠄁して行く可能性を有󠄁し、貨幣󠄁所󠄁有󠄁者󠄁は其の度每に貨幣󠄁價値下落に基く損害󠄂を蒙るから、その損害󠄂から免󠄁かれる爲に受取つた貨貨[原文ママ]は出來る丈󠄁早く支󠄂拂に用ひる樣になる。
卽ち貨幣󠄁の形に於ける所󠄁有󠄁を商品の形に於ける所󠄁有󠄁に變更󠄁し樣と努力するのであるが、その結果貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度は大となり、これは貨幣󠄁量の增加と同じ結果となるから、ます/\物價騰󠄁貴に拍車をかける事になる。
而して斯かる急󠄁激なるインフレーシヨンは、主として戰時等に於て起󠄁るものであるが、斯くの如き分󠄁配關係の不均衡によつて國民生活は極度に脅やかされ、又󠄂一方生產者󠄁は生產を延󠄂遲󠄃[原文ママ]させれば遲󠄃延󠄂させる程󠄁、換言すれば費用と生產價格との開きを時間的に大ならしめれば大ならしむる程󠄁、有󠄁利となるのであるから、この事は生產諸󠄀力の著󠄁しい低下を齎らし、生產力の低下は戰爭の爲の著󠄁しい需要󠄁と矛盾を來して國䇿遂󠄂行上致命的の障害󠄂となる。
又󠄂、戰時に於ては普通󠄁戰費の大部分󠄁は公󠄁債によつて償はれるのであるが、インフレーシヨンによる債權關係の破壞は戰費の調󠄁達󠄁を不可能たらしめるのである。
如斯インフレーシヨンの及ぼす彰響󠄃[原文ママ]は、實に廣範多岐に亘り、引いては國家機󠄁構󠄁の破壞と云ふ結果をも招來し兼󠄁ねないのであるから、我々は何としてもこの惡性インフレーシヨンを防止しなければならないのである。
四、我國に於ける物價對策
次󠄁にインフレーシヨンの對䇿に入るわけであるが、我國の事態に於ては對外關係に於けるインフレーシヨンの對䇿は、爲替相場維持として旣に與へられた前󠄁提となつてゐるから、インフレーシヨンの對䇿は國內關係を中心として求める事にする。
而してインフレーシヨンの國內的現𧰼形態は結局物價の騰󠄁貴に歸着するのであるから、此處では物價對䇿を主として述󠄁べて行く。
物價對䇿には、貨資󠄁[原文ママ]側からする對䇿と物資󠄁側からする對䇿とがある。
貨幣󠄁側からは、國民購󠄂買力の吸收及び資󠄁金流通󠄁の調󠄁整がそれである。
我が國の如く、金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、軍需品の需要󠄁が現在與へられた軍需品生產力を越える場合には、消󠄁費生產の生產擴張を抑制して、抑制部分󠄁を軍需生產部門へ流入するか、或は旣存の消󠄁費財生產構󠄁造󠄁を再編󠄁成󠄁するかの方法に依らねばならないのであるが、斯かる繰作[原文ママ]を可能ならしめる手段は、增稅及び公󠄁債の發行等による國民の購󠄂買力の吸收に外ならない。
乍然、增稅の程󠄁度は極く限られてゐるから、專ら公󠄁債の發行に依るより外にないのである。
然し、この公󠄁債の發行も唯、中央銀行が引受けて手許に所󠄁有󠄁してゐる場合には斯かる軍需品生產擴大繰作[原文ママ]の圓滑なる運󠄁行は不可能なのである。
何故ならば、市中銀行は、政府財政の膨脹によつて撒布せられた國民の所󠄁得增加によつて、增大すべき消󠄁費財貨需要󠄁に應じて擴張せんとする消󠄁費財生產に對して、必要󠄁なる貸出をし得る狀態にあるからである。
從つて銀行の資󠄁金は統制されなければならないが、この統制の第一の方法は中央銀行のオープン マーケツト オパレーシヨンに他ならない。
卽ち、オープン マーケツト オパレーシヨンによつて銀行の許與する所󠄁の生產信用は公󠄁債投資󠄁によつて抑制せられるからである。
然して公󠄁債發行は、物財的には政府の軍需品の購󠄂入に他ならないのであるから、銀行が公󠄁債へ投資󠄁をなすと云ふ事は、換言すれば、消󠄁費財生產擴張を抑制して軍需品生產擴張を助長する事になるのである。
かゝる意味に於て、オープン マーケツト オパレーシヨンは、インフレーシヨン抑制の手段として遂󠄂行されなければならないが、然し、インフレーシヨンを抑制する手段としては之のみにては不可能である。
何故ならば軍需品生產工業の擴張の爲に、より大なる生產信用が要󠄁求せられる事になり、之は銀行の公󠄁債投資󠄁と矛盾するからである。
故にこの問題に對しては、當然國家の資󠄁金統制運󠄁動を必然ならしめるのである。
貨幣󠄁側に於ける對䇿は以上の如くであるが、之のみにてはインフレーシヨンの發展が全󠄁く停止されるわけのものではなく、それには、物資󠄁側よりの貨格[原文ママ]の抑制及び配給の調󠄁整によつて補充されなければならなぬ[原文ママ]のである。
價格の抑制䇿としては、暴利取締及び價格の公󠄁定であり、配給調󠄁整䇿としては物資󠄁使󠄁用の法的制限、及び物資󠄁割󠄀當配給制がそれである。
物資󠄁需給の方䇿としては、積極的にそれ等物資󠄁の供給增加が問題となるが、增產の爲の生產力擴充は、それ自體物資󠄁需要󠄁を換起󠄁[原文ママ]するばかりでなく、國內に資󠄁源の缺けたものに就ては生產力を擴張すべき方䇿がないのである。
故に當面の對䇿としては輸󠄁入增加と云ふ事が重要󠄁問題であるが、我國に於ては金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、增大すべき軍需品需要󠄁に應じて一般消󠄁費財の輸󠄁入制限は不得已事である。
如斯、生產の擴張は期待されぬ一方、購󠄂買力はます/\增大するのであるから、こゝに於て國家統制による需給の調󠄁節󠄂が必要󠄁となつて來るのである。
卽ち暴利取締から價格の公󠄁定に及び更󠄁に生活必需品に對しては切符割󠄀當制にまで進󠄁むのである。
先づ暴利取締に次󠄁ぐ段階としてはかゝる物資󠄁に對して、最高、最低又󠄂は標準價格を公󠄁定することが必要󠄁である。
勿論かゝる價格の公󠄁定に對しては嚴重なる監視󠄁を行ふことが必要󠄁であるが、それが生活必需品であり、而もその供給數量が禁止的に制限される事になると、假令價格の公󠄁定が行はれても、事實に於ける適󠄁用は困難󠄀になり、當然闇相場の出現は免󠄁れ得ないであろう[原文ママ]。
何故ならば、一方に於て供給は極度に制限せられるのに、他方需要󠄁は制限されないのみならず、購󠄂買力の增加によつて益󠄁々增大する可能性があるからである。
尤も供給が極度の制限によつて完全󠄁な品不足になつて終󠄁ふ樣な場合には問題ではない。
併し、そう[原文ママ]した場合には其の物資󠄁に對する購󠄂買力は他の商品に向けられ當然それ等の價格騰󠄁貴を招來し得るのである。
如斯、生活必需品や日常使󠄁用品の供給が相當限られるやうになると、價格の公󠄁定が行はれても價格の抑制は殆んど不可能である。
隨つて次󠄁の段階の切符による割󠄀當配給制にまで進󠄁むのである。
固より切符配給の場合に於ても切符に對する闇相場は免󠄁れないのであるが、それが生活必需品であり、その割󠄀當量が最少限度に留まる場合にはかゝる闇相場の出現は緩󠄁和せられるであらう。
故にこの切符割󠄀當制は生活必需品のそれも或一部に限られるのであつて、之を全󠄁財貨に適󠄁用する事は到底不可能な事である。
從つて、一般的に云へば、需要󠄁の調󠄁整は、他の方䇿に依らねばならぬのである。
それは國民の自發的節󠄂約に外ならない。
卽ち國民は、消󠄁費財貨に對する需要󠄁を出來得る限り節󠄂約する事である。
と同時に、其の節󠄂約部分󠄁を貯蓄手段に轉じなければならない。
而してこの貯蓄手段は、信用機󠄁關に貯蓄せられるか、又󠄂は直󠄁接公󠄁債を購󠄂入するかの方法が採󠄁られねばならない。
この貯蓄手段は何れにしても社󠄁會經濟的意義は同じになるであらう。
何故ならば信用機󠄁關に託した場合に於ても信用機󠄁關はこの貯蓄分󠄁を再び公󠄁債に投資󠄁せねばならないからである。
而して公󠄁債を購󠄂入すると云ふ事は、その金額だけ消󠄁費財を節󠄂約し、軍需品製產に對して協力する事になるのである。
以上物價對䇿の主流を述󠄁󠄁べたに過󠄁ぎないが、之を要󠄁するに、一方貨幣󠄁側に於ては購󠄂買力の吸收を行ふと同時に、銀行資󠄁金流動を統制し、他方物資󠄁側に於ては、價格の公󠄁定、物資󠄁割󠄀當配給制等を行つて物資󠄁需要󠄁の調󠄁制を確立てし[原文ママ]行けば、インフレーシヨンの本格化を抑制する事が出來るのであるが、この間にあつて最も重要󠄁な役割󠄀を果すものは、國民の消󠄁費節󠄂約の勵行である。(十五年九月󠄁)