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*[[恒心文庫:豚夢]] - 同趣向の作品
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2021年5月29日 (土) 14:54時点における最新版

本文

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
静かな揺らぎを奏でる列車の中で、齢三十六にもなる男の奇声がこだました。
「夢だったナリか…」
唐突にそう呟く男。静まり返った車内で傍から見ればその様子は奇行そのものであったが、他の乗客は気にするそぶりがない。
ローカル線のような短い車両で、さらに夕方に入る少し前の時間帯であったためだろうか、人はまばらであった。
男は首をかしげた。当職は列車に乗った記憶などない。しかし気が付いたらここに座っていた。直前の記憶が全くないのだ。一体何故ここにいるのだろう。
車内を見渡す。学生らしき男が二人、若い女性が一人、それよりは少し年をとった女性が一人、初老の男が一人。
この中で弁護士なのはおそらく当職だけだ、そう判断すると男の顔は先ほどの不安もどこへやら、安堵に満ちた表情となった。
列車は、なおも走り続ける。

しばらくすると列車は緩やかに速度を下げ、どこかの駅に停車した。
ゴトン、と音を立て、車体が揺れる。空気が抜ける音。ドアが開くと、一人の女性が席を立った。
男はその姿を目で追う。先ほどの少し年をとった女性だった。女はドアへ向かって、どこか悲しげな表情で歩いていた。
その時、男の中にある感情が湧きあがった。彼女と離れたくない、行かないでくれ。なぜかそう強く思うようになった。
当職にそんな性癖はない。当職の射程範囲は12~17である。なのになんだろう、この感情は。
そうしている間にも、女はドアに到着、足を踏み出し、プラットホームへ降り立った。
刹那、ベルが鳴り、再び空気が抜けるような音が響く。ドアが閉まり、列車はそそくさと動き出してしまった。
男の願いも空しく、最後までその姿を目で追っただけとなってしまった。
列車は、なおも走り続ける。

またしばらくすると、列車は駅に到着した。近くに川が流れているようだ。夜の訪れを感じさせる、爽やかで冷たい風が車内に流れ込む。
席を立ったのは、男子学生一人。男はその学生に見覚えがあった。と、同時に、彼の中に強い憎しみの感情が生まれた。
列車でたまたま同席しただけの人間に、なぜそんな感情が沸くのかはわからない。しかし何故か、学生の姿には殺意さえ芽生えていた。
学生がプラットホームに降り立つと、その周りを取り囲むように複数の学生が集まってきた。友人だろうか。その後を確認する前に、ドアが閉まってしまった。
男はとにかく、その学生が自分の視界から消えたことに安堵していた。彼には申し訳ないが、なるべくさっさと降りて欲しかったのが本心である。
制御器を動かす音が聞こえ、列車が一度大きく揺れる。プラットホームに響く打撃音は、車輪の音にかき消された。
列車は、なおも走り続ける。

その後、初老の男性一人降りた。身なりの整った、当職よりも裕福そうな男である。だがしかし、降りる間際、些か怯えたような表情をしたのが、唯一疑問であった。
次に学生が下りた。男は再び強い憎しみを覚えた。ただならぬ怒りを感じた。学生が降りる時、同じく怯えた表情であったが、男の気を晴れさせた。
列車は走り続ける。外の明るさは指数関数的に減っていき、いよいよ夜の到来を告げるようだった。車内に残っているのは、男と若い女性だけとなった。
男はふと女性に目を移す。女性は当職が見たこともないような法律の本を読んでいた。よく見ると胸のあたりにバッチがついていた。どうやら弁護士のようである。
「あの人も弁護士ナリか。勉学に励むとは良い心がけナリね。」
先ほどの男の判断は無事棚に上げられた。
列車が駅に近づく。速度が下がる。それに比例して、男は次第に苛立ちを覚え始めた。二人の学生に対して湧きあがったような、あの苛立ち、殺意である。
殺意の対象はもう一人の女であった。なんだかわからないが、この女を殺してやりたい。そう強く感じた。
列車が駅に到着するころには、男の憎しみはもう少しで女に飛びかかろうかというところまで増大していた。既の所で女性は立ち上がり、降車した。
列車は、なおも走り続けた。

いよいよ列車に乗っているのは男だけである。男は、ここまで自分の身に起こった数々の奇妙な現象について考察をしていた。
そして、ある事実に行き着いた。その事実に気付いた途端、男の顔は急に青ざめた。男は全て気づいてしまった。乗客の正体、そして列車がどこへ向かうのかも。
最初に降りた女性は、当職の母親であった。だから当職はあの女性に対して執着するような感情を起こしたのだ。当職の母は、生まれて間もなくこの世を去った。
次に降りた学生は、当職の弟だ。いけ好かない野郎だった。弟は地元の悪いものたちに集団暴行を受けた後自殺した。いい気味だ。
その次に降りた初老の男性はよくわからないが、恐らく当職の遠い親戚だ。何年か前に事件を起こしてその後自殺したと聞いたことがある。
その次に降りた学生は、当職に対し不遜にも殺害予告をした奴だ。最後の女は当職に逆らって勝訴した弁護士だ。どちらも当職が手を下した連中である。
この列車は、死人を乗せる列車。それも当職に関わりのある人間のみを乗せた列車だ。一つ駅に着くたびに、一人の人間が降り、人生の終わりを迎える。
そして、最後に乗っているのは当職――

「嫌だ…まだ死にたくないナリ…」
男は譫言のようにそう言い続けた。列車は一定の速度で歩みを進める。いくら弁護士だろうがSFC出身だろうが、この運命はどうすることもできなかった。
夜の帳は降りた。無機質な蛍光灯の灯りが、冷たく男を照らしている。列車は次第に速度を下げ始めた。男は、遂に自分の生命が終わりを告げることを悟った。
「あ……ああ………」
駅の先端が見えた。一秒がまるで無限のように感じる。終わってほしくない。まだ当職は死にたくない。おいしい物を食べて幼女を犯して過ごしたい。
生きたい――
金属が擦れる音が聞こえ、列車が前に傾く。ゴトン、という音と共に、列車は完全に停車した。空気が大きく抜け、ドアが開く。冷たい空気が流れ込んだ。
「嫌だ!当職は生きるナリ!降りないナリよ!早く折り返すナリ!早くするナリ!!!!!」
男は頑なに降車を拒んだ。どっしりと大きな尻を置き、梃子でも動かない覚悟のようである。すると、唐突に運転席の扉が開き、運転手らしき男が男に近付く。
顔を上げるなり運転手を睨む男。運転手は、静かにこう告げた。
「お客さん、終点です。」
「嫌だ嫌だ!死にたくない!死にたくない!当職は死なない!死なない!当職は弁護士ナリよ!弁護士!弁護士!弁護士弁護士弁護士!あいつらとは違うナリィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
静かな揺らぎを奏でる列車の中で、齢三十六にもなる男の奇声がこだました。
「夢だったナリか…」
唐突にそう呟く男。静まり返った車内で傍から見ればその様子は奇行そのものであったが、他の乗客は気にするそぶりがない。
ローカル線のような短い車両で、さらに夕方に入る少し前の時間帯であったためだろうか、人はまばらであった。
男は首をかしげた。当職は列車に乗った記憶などない。しかし気が付いたらここに座っていた。直前の記憶が全くないのだ。一体何故ここにいるのだろう。
車内を見渡す。学生らしき男が二人、若い女性が一人、それよりは少し年をとった女性が一人、初老の男が一人。
この中で弁護士なのはおそらく当職だけだ、そう判断すると男の顔は先ほどの不安もどこへやら、安堵に満ちた表情となった。
列車は、なおも走り続ける。

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